秋春制移行で…4.5か月の「空白期間」 “重鎮”が語る死活問題「集客も落ちるのでは」

鹿島の鈴木満フットボールアドバイザー「環境の変化を見ながらやっていくこと」
Jリーグは2026-27シーズンからのシーズン移行(秋春制への移行)という、発足以来の「大改革」に舵を切った。議論は長きにわたり行われてきたが、このタイミングでの決定は、日本サッカー界に何をもたらすのか。またこの歴史的な転換点において、どのような課題に直面していくのか。鹿島アントラーズの常勝軍団としての「基礎」を作り上げ、長年にわたりGM(ゼネラルマネージャー)として、そして現在はアドバイザーとしてクラブを支え続ける鈴木満氏に、シーズン移行について聞いた。(取材・文=森雅史)
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シーズン移行の議論は、今に始まったことではない。2017年にはJリーグと日本サッカー協会(JFA)で、将来構想委員会を立ち上げ、議論を重ねてきた。JFA側からはサッカーがヨーロッパ中心になっている今、シーズン移行しなければ世界の潮流に乗り遅れるという論理が示されたが、Jリーグ側は「ノー」という決断を下した。それは「雪国のスタジアムインフラの問題」と、「アジアサッカー連盟(AFC)が春開幕のACLを続ける限り、移行のメリットがない」という、極めて現実的な2つの壁だった。
では、そこから7年が経過し、Jリーグが重い腰を上げた決定的な要因は何だったのか。鈴木氏の答えは明快だった。「機運が高まった理由は3つある」という。
「まず1つは、ACLがシーズン移行されたことですね。もう1つ大きかったのは、酷暑の問題でした。この暑さのなかでサッカーは厳しいという話になった。あとはヨーロッパへの移籍です。シーズン途中に主力が抜けるのはクラブにとって非常に厳しい。そこでもう1回シーズン移行を検討しなければいけないんじゃないかという話になりました」
最大の障壁だったACLが、ヨーロッパのカレンダーに合わせて秋春制に移行した。そして、夏のパフォーマンス低下と選手の健康被害が看過できないレベルに達した「酷暑」問題。さらに、Jリーグのレベルが上がり、選手の「ステップアップ」が常態化した結果、夏の移籍市場で主力が引き抜かれるという「競技的な不利益」も出てきた。
この3つの外圧が、ついにJリーグを動かした。鈴木氏も、競技的な観点からの「不合理」は、もはや限界だったと指摘する。
日本サッカーのトップリーグが秋春制を採用するのは、日本サッカーリーグ(JSL)時代以来となる。鈴木氏は「当時は試合数が全く違った」と振り返る。
「12チーム構成だったので試合数が少なかった。だからウインターブレイクもたっぷり取れたし、春と秋の温暖でいい時期にプレーしようという発想だったんです」
だが、現代サッカーは違う。年間試合数はJSL時代とは比較にならず、過密日程が常態化している。そのなかで、ヨーロッパのカレンダーとズレていることの弊害は、特にシーズン終盤に集中していた。
「例えば今、9月、10月、11月はインターナショナルマッチウインドウ(IWC)が3回ありますね。その時期はJリーグが佳境になってくる時期です。優勝争い、あるいは残留争いで盛り上がっているときに間が空くということは、盛り上がりの欠如にもつながりますし、選手にとっても試合勘が保てないところが問題でした」
さらに深刻なのが、ACLとのスケジュールの「ねじれ」だった。
「今はACLがシーズン移行したので、Jリーグが佳境のときにACLがスタートして日程を圧迫するし、逆にACLが佳境のときにJリーグはスタートしたばかりのチーム作りの最中に戦わなければいけません。そのどちらも調整が難しいんです」
シーズン移行は、これらの「競技的な不合理」を解消するための、必然の決断だったと言える。
しかし、鈴木氏の表情は晴れない。シーズン移行という「総論」には賛成しながらも、彼が今最も懸念しているのは、それによって生まれる「新たな課題」だった。それは「オフシーズンの長期化」だ。
「これまでのシーズンだったらリーグ戦は12月の1週目で終わり、次のシーズンが2月の中旬には始まっていました。だから試合がない時期は大体2か月半だったんです。それがシーズン移行するとシーズンは5月の終わりか6月の1週目で終わり、8月に始めることになります。この夏の中断期間が約2か月。さらに現在のオフシーズンにあたる冬にウインターブレイクを2か月半とると、合計で4か月半の間、試合がないんです」
2.5か月が、4.5か月へ。「オフが2か月増える」――。この数字が持つ意味を、強化のトップとして生きてきた鈴木氏は、誰よりも重く受け止めている。これは単なる「長い夏休み」ではない。プロアスリートにとって、そして興行としてのJリーグにとって、致命的な「空白期間」になりかねないという危機感だ。
「これって、プロの選手が4か月半公式戦でプレーしないというのは、チーム管理や強化を考えなければいけない人間の間では大きな問題です。選手の成長やチームの強化につながらないし、強いては日本代表の強化とかにもつながっていかないことになるんです」
試合という「真剣勝負の場」を4.5か月も失うことが、選手の成長を阻害する。そして、それだけではない。
「観客が試合に行く習慣をなくしてしまうのではないか、集客も落ちるのではないかという強い懸念があります」。プロスポーツとしては死活問題だ。
ヨーロッパ主要リーグのオフが約2か月強であることを考えても、日本の「4.5か月」は異常に長い。酷暑から逃れるための移行が、今度は「長すぎるオフ」という新たな競技的・興行的な課題を生み出してしまった。
鈴木氏は、これがシーズン移行を成功させるか否かの、最初の分岐点だと断言した。
「いかにウインターブレイクを短くするか。でもやっぱり北国のことも考えなければいけないので、強引に試合を組むわけにはいかない。いろんな施策を考え、環境の変化を見ながらやっていくこと。それが一番のまずポイントですよね」
シーズン移行という船は、大きな期待と、同じくらい大きな課題を抱えて、今まさに船出しようとしている。
(森雅史 / Masafumi Mori)

森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。





















