Jリーグに訪れる“大改革”「これまでにない」 来年に3つの変化…常勝軍団の“重鎮”が語る未来予想図

ジーコ氏と試合観戦をする鈴木満フットボールアドバイザー【写真:アフロ】
ジーコ氏と試合観戦をする鈴木満フットボールアドバイザー【写真:アフロ】

鹿島の鈴木満フットボールアドバイザーは30年以上、強化に携わる

 Jリーグ発足時から常勝軍団・鹿島アントラーズの強化を牽引し、「重鎮」あるいは「名伯楽」と称される鈴木満氏。その言葉には、長年「強化の最前線に立ってきた男」ならではの圧倒的な経験知と説得力が宿る。「FOOTBALL ZONE」では、鈴木満フットボールアドバイザーの哲学を伝える連載を随時配信。連載の第1回は2026-27シーズンからの「シーズン移行」に伴うJリーグの大改革について語ってもらった。(取材・文=森 雅史)

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 シーズン移行をはじめとしたJリーグの大改革において、その鋭い視線は、トップチームの動向のみならず、制度変更がもたらす育成年代への構造的な「歪み」や、クラブ経営の根幹を揺るがす人件費高騰の必然性までも見抜いている。Jリーグの議論の場でも、一部の楽観論を「そうはならない」と一蹴し、市場原理に基づいた現実的な未来予測を突きつける。彼が示す懸念や予測は、単なる一個人の意見を超え、Jリーグの未来を左右する議論において、誰もが耳を傾けざるを得ない「重み」を持っている。

 その鈴木氏をもって「Jリーグは30年経って、これまでにない変革の年になる」という、シーズン移行の2026年を迎える。30年以上の歴史の中で初めて行われる大改革なのだ。

「今回はシーズン移行だけじゃない。『ABC契約』もなくなる。『U-21 Jリーグ』(仮称)もできて、どんなことが起きるか分からない。30年経って一番の変革の年にはなると思います。一番変化がある過渡期で、勢力図も多分変わっていくでしょう。2026年からの1、2年はすごく大事になってくと思いますね」

 かねてから議論されていたシーズン移行はもちろんのこと、選手の年俸を定めていた「ABC契約」がなくなり、優秀な若手選手の年俸は引き上げられる。さらにポストユース(19歳~21歳)および周辺年代の選手育成・強化を目的に、21歳以下の選手を主な対象とする大会「U-21 Jリーグ」(仮称)が創設され、東西2リーグ制で現在11クラブが参加予定となっている。これら一連の改革が連動し、日本のサッカー界が根底から変わろうとしているというのだ。

 それぞれの影響について語る前に鈴木氏は、この激動の時代は、必然的に「ある存在」の真価を問うことになると、語気を強めて語った。

「強化責任者の力量がストレートにチームの成績に反映するでしょうね。今まで以上に能力が試される時代にどんどんなってくると思います」

 ゼネラルマネージャー(GM)やスポーツダイレクター(SD)、フットボールダイレクター(FD)、という肩書きを持つ人物に求められる経営的視点、契約の知識、育成への理解、そして独自の編成哲学。そのすべてを高いレベルで備えた者だけが、この新たな戦国時代を生き残ることができるのだ。

 だが、どうやって戦い抜くための知識を得るのだろうか。Jリーグの中で最も成功した強化担当責任者だった鈴木氏はJリーグ発足当時の「ゼロ」からの試行錯誤を振り返った。

「私たちは全員、アマチュアからのスタートでした。プロのフロントという世界はなかったんですよ。当時、チームは監督以下で運営するものだった。だから試合にもついていかないし、合宿も監督以下だけで行われていました。それをフロントが見て、把握して、管理して、いろんなチーム改革や契約につなげるような評価につながる仕事をしなければいけないということになった。今の強化部のあり方を作ったのは、僕たちがスタートだったと思います」

30年以上、試行錯誤して確立した「強化哲学」

 指標も、教科書もない時代。その中で、鹿島が「常勝軍団」たり得たのは、一人のレジェンドの存在があったからだ。

「私がラッキーだったのは、やっぱりジーコがいたことでした。ジーコから『フロントはこうしなければならない。こういう場にいなければならない』と、監督との関係性、選手との距離感などの『肝』を指導してもらいました。そういう意味でラッキーでしたね」

 ピッチ上だけでなく、クラブ運営の「プロフェッショナリズム」とは何か。その哲学を、鹿島はジーコから直接学んだ。それが、今に至る「強化の鹿島」の礎となっている。

 そして30年以上の試行錯誤を経て、鈴木氏が確立した「強化哲学」。それは、世間の評価とは全く異なる次元でチームを分析することだ。いろいろなメディア媒体で恒例となっている「シーズン前の戦力分析」とは違う視点を持たなければいけないという。

「名前で選手を獲得したり、人数を多く取れたりしたら評価できるということではないのです」

 鈴木氏が見ているのは、チーム全体の「バランス」だ。特に「過剰戦力」こそが、チームを崩壊させるアキレス腱になると見抜いている。補強とは、数を揃えることではない。適正な人数の中で、健全な競争を生み出し、控え選手のモチベーションを維持することこそが「強化」の本質だ。

「余剰戦力を取り始めたらチームは絶対うまくいかなくなる。選手はみんな試合に出たいんだから。納得できる序列があって、序列が上の選手が怪我をしたときには出番があるという意識づけをしておかないと、出られない選手のモチベーションは全然保てない。だから、そういう編成をしなければいけないんです」

 この確固たる哲学こそ、これまで多くのタイトルを鹿島が攻略してきた秘訣なのだろう。そしてそういう鈴木氏は、この3つの改革が重なる「来年」の重要性を、改めて強調した。

 2026年、Jリーグは発足以来の「変革の年」を迎える。その荒波を乗り越える鍵は、鈴木氏が語ったような、ブレない「強化の哲学」にあるのかもしれない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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