少年時代に抱いた「プロになる使命」 J1内定の3年生…ロス五輪世代の強い軸「根っこは変わらない」

2026シーズンからの横浜FM内定が決まっている樋口有斗【写真:安藤隆人】
2026シーズンからの横浜FM内定が決まっている樋口有斗【写真:安藤隆人】

中部大3年の樋口有斗が描くビジョン

 今や大学サッカーはJクラブにおいて重要な一大供給源となっており、今年も多くの大学生がJ1、J2、J3のクラブに内定をもらっている。その数多くの内定選手の中で、今回は2026年シーズンから横浜F・マリノス入りが内定した中部大学の3年生MF樋口有斗に独占インタビューを実施。最終回では樋口が描く今後のビジョンについて。(取材・文=安藤隆人/全5回の5回目)

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   ◇   ◇   ◇   

「ずっと全国に出たことがなかったので、見てもらえる機会が他の選手よりも本当に少なかった分、今は見てもらえるという喜びの方が大きいです。見てもらえることでモチベーションが上がります」

 決して人に見られるためにサッカーをやってきたわけではない。ただ、レベルが上がれば上がるほど、自分は知っているけど相手は知らないということが多かった。だが、それをモチベーションに変えてきた。注目されるようになってプレッシャーを感じることもあるが、それ以上に幸せとさらなる向上心に火をつけてくれる要因になっている。

「小さい頃から自分が一番やり続けてきたもので上に行きたいという思いが強かったんです。両親もすごく協力的で、お父さんは今もなんですが、単身赴任で京都にいて、必ず土日は埼玉に帰ってきて試合を見にきてくれて送り迎えをしてくれたり、いろいろお父さんなりに小学生、中学生の時にトレーニングを調べてくれて一緒にボールを蹴ってくれたりした。お母さんも本当にいつも優しく応援してくれて、これまで関わってくださった指導者の皆さんも含めて、僕はサッカーを中途半端にしては絶対にいけないんです。1%でもチャンスがあるのなら全力で頑張って、プロになるのが使命だと思っていましたし、なってからもそれは変わりません」

 真っ直ぐに目を向けて話す姿勢からも強い信念と意思が伝わってくる。彼にこれからの具体的なビジョンを聞くと、より引き締まった表情でこう続けた。

「1年早くプロを経験できることは素晴らしいことですし、北辻総監督も堀尾監督も『上のレベルでやれるなら、迷わず行け』と背中を押してくれた。課題は明白なので、1つずつきちんと向き合って改善しながらも、自分の長所は見失わずに磨き続けていきたい。個人的な目標は来季からマリノスで試合に出場することと、早生まれなので2028年のロサンゼルスオリンピックの出場です。オリンピックに行くまでにマリノスで主軸となっているのか、海外でプレーしているのかの状態にできるように、一切妥協をせずに全力で取り組んでいきたいです」

 プロになったら当然、これまでと比べ物にならないほどいろんな人が寄ってくる。その中にはマイナスに働くような人間も紛れ込んでいるかもしれない。チヤホヤされるリスクがあるが、彼なら心配はない。

「取り巻く環境は大きく変わるとは思いますが、自分の根っこは変わらない」と口にする樋口に改めて「流されない自分を確立するために必要なこととは?」と質問すると、少し考えてから口を開いた。

「やっぱり『これだけは譲れない』という軸を持つことがすごい大事だと思っています。僕はサッカーでは絶対に負けたくないという軸がある。じゃあ、本当にその軸があるのに、夜遅くまで遊ぶのはいいのかと言われればダメに決まっている。練習で手を抜いて、その後に友達と遊ぶとなったら、その行為は本当に自分の一番やりたいことに対しての裏切りでもあるし、目標を達成するために邪魔なことなのではないかというのはしっかりと自己判断できる。そこの軸が緩いと、判断基準が曖昧になってしまって、『今日ぐらい、いいか』という考えになってしまう。自分の絶対的な軸を持つということは大事だと思います」

 胸のすくような回答だった。信念という言葉では安っぽく感じてしまうほど、樋口の強力な生きる軸を知ることが出来た。

 1時間半に渡るインタビューを終え、彼から学ぶことの方が多かったように感じた。言葉の1つ1つが最後まで一貫していて、1つの物語を読み終えたような気分になった。

 最後に彼が発した言葉を、いま陽が当たらない場所でサッカーを続けている人たちへのメッセージとして記してこのコラムを締めたい。

「全国やプロのスカウトにアピールする機会は関東、関西のチームに比べて物凄く少ないのが東海地区の現実だと思っています。だからこそ、常日頃からプロの場所を意識して過ごさないと、急に来たチャンスを掴めない。

 大学生活を通じてそのチャンスはかなり少ないと思っていたので、『やっていれば見てくれる』という気持ちではなく、『プロになるために自分が何をすべきか』をずっと考えて行動していました。そうすれば『なんで見てくれないんだ』という他責な思考ではなく、常に自分にベクトルを向けて行動することが出来て、より選手としても、人としても成長できると思います」

(安藤隆人 / Takahito Ando)



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安藤隆人

あんどう・たかひと/岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに。育成年代を大学1年から全国各地に足を伸ばして取材活動をスタートし、これまで本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、南野拓実、中村敬斗など、往年の日本代表の中心メンバーを中学、高校時代から密着取材。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)、早川史哉の半生を描いた『そして歩き出す サッカーと白血病と僕の日常』、カタールW杯のドキュメンタリー『ドーハの歓喜』(共に徳間書店)、など15作を数える。名城大学体育会蹴球部フットボールダイレクターも兼任。

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