「年齢はただの数字でしかない」 40歳を超えてリーグMVP獲得…壮絶リハビリの背景

第一線を走り続ける浦和レディースの安藤梢【写真:増田美咲】
第一線を走り続ける浦和レディースの安藤梢【写真:増田美咲】

「毎日、必死です」42歳で現役を貫く 澤穂希さんの背中を追って現役を続けてきた

 40歳でWEリーグのMVPを獲得した、三菱重工浦和レッズレディースのFW安藤梢。なでしこ黄金期を支えたレジェンドは、今もなお第一線で走り続けている。FOOTBALL ZONE」の独占インタビューで、今も変わらずピッチに立ち続ける理由を語ってくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・砂坂美紀/全3回の1回目)

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「年齢はただの数字でしかない」というFW安藤梢は42歳の今も早朝から三菱重工浦和レッズレディースの練習グラウンドに現れて、10代の選手に混じって汗を流している。現役生活を続けることについて「毎日、必死ですよ」と目を見開いて笑顔で答える背番号10。意外にも、ここまでサッカーを長く続けるとは思っていなかったという。

「こんなに長く現役を続けるなんて思っていませんでした。自分でも未知の世界です(笑)。私が若手のころの先輩たちは、30歳ぐらいで引退していたのですが、澤(穂希)さんが37歳まで現役を続けていらっしゃる姿を見ていたので、『そこまで頑張ろう』という目標がありました。その年齢を超えた時に、澤さんから『まだまだいけるから、頑張って』と言ってもらってチャレンジしてきました」

 澤さんとは、ともに2011年W杯制覇を果たし、2012年のロンドン五輪で銀メダルを獲得したなでしこジャパン(日本女子代表)の元チームメイトだ。かつて、同じポジションを争ったこともあったが、安藤はFWとして、澤さんはボランチとして黄金期を支えた。その背中を追い、気が付いたら5年以上も現役を長く続けている。

「やっぱり、35歳を過ぎてからは、本当に1年1年が勝負で。いつもシーズンが終わったときに、『体と心も戦えるか』って自分に問うて、そんなに迷うことなく『来年もやるぞ』っていう感じで毎年過ごしてきて。だから、そんなに経った実感がないんです」

 陸上選手のようなスピードで相手をかわし、強烈なシュートでゴールを量産。献身的なプレーで攻守に渡ってピッチを躍動してきた。2010年から7年半は、ドイツの女子ブンデスリーガでプレーし、名門チームの主柱として数々のタイトルを手にしてきた。

「若い時のように無駄に、いくらでも動くっていうよりは、試合全体や相手と味方の動きをよく見たり考えたりしながら、効率よくサッカーと向き合うようにはなっているかなと思います。ここまでやれているのは、すごく不思議な感じですね」

 40歳になった2022-23シーズンはWEリーグのMVPを獲得。チームに怪我人が多く、本職ではないセンターバックでプレーして、DFとしての受賞であった。攻撃だけでなく、守備やゲームメイクもしっかりこなせるため、どのポジションでも変わらず活躍できる幅の広い選手となった。

「40歳をこえると、そんなに若い時と同じようにはできません。より洗練されて、ポイントを絞るようになりました。どこでどうやって力を発揮するかがポイントになってきます」

 熟練技が冴え渡るプレーぶりで、スタジアムに訪れた人を魅了している。

前十字靭帯損傷のリハビリは“実験だ”と前向きに なかなか復帰できず“もがいた”1年

 今シーズンはいつもとは違った。2024年1月に左膝前十字靭帯損傷の大怪我を負い、昨シーズンの出場数はゼロ。1年以上も試合から遠ざかったのは、幼稚園でボールを蹴り始めてから、人生で初めてのことだ。

「すごく“もがいた”1年でした。膝の靭帯の治り具合は個人差があって、“難しかった”というのが正直なところです。それでも、お医者さんやトレーナーさん、多くの人がいろんな角度でサポートしてくれたおかげここまできました」

 現在は筑波大の助教として教壇に立つ安藤は、自身の怪我も「これも実験」と考えるほどポジティブにリハビリに努めてきた。前十字靭帯損傷の怪我からの復帰は、一般的には8~10か月程度とされているが、そう簡単にはいかなかった。何度も壁にぶつかりながら、懸命に復帰を目指した。時には、筑波大出身で元チームメイトの猶本光(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)や清家貴子(ブライトン)など、ともに学んだ仲間や、教え子から励ましをもらうこともあった。

「同時期に同じケガをしていた(猶本)光とは、よく一緒に過ごしていましたが、リハビリに対する姿勢が本当にすごくて。例えば、10回、10セットのリハビリだったら1回も手を抜かない。自分と向き合う姿勢は『私も負けていない』と思っていましたけど、敵わないくらいものすごく真剣にやっていて。隣にいると自分も引っ張られて、どんなに苦しくても頑張れました。(清家)貴子からは『ここで辞めたらかっこ悪いっすよ』ってキツいことを言われて、励まされました(笑)。気持ち的に落ち込むことがありましたけど、おかげで乗り越えられましたね」

 もちろん、復帰を待ち続けていたチームやサポーターにも感謝の気持ちでいっぱいだ。

「信じて待ってくれたし、『しっかり復帰して戦うところを見せたい。絶対チームに貢献したい』という想いが、モチベーションになりました」

変革の時期にある浦和L 若手選手と積極的にコミュニケーションをとる

 8月18日、2025/26 SOMPO WEリーグ第2節のアルビレックス新潟レディース戦、80分に交代出場で1年7か月ぶりのピッチに立った。右サイドハーフで出場し、オフザボールの動きで相手を翻弄するする巧みさと、攻撃の起点になる的確なパスで攻守に貢献。どのポジションでも役割を果たせる引き出しの多さは、さすが安藤だ。

「今までの試合と変わらず、『自分のプレーを出す』『勝利に貢献する』ことに必死でした。終わってから、周りの人たちが『復帰おめでとう』と言ってくれて『あ、そうだった』という感じでしたね」

 所属する浦和Lは、変革の時期にある。今シーズンの始動前、これまでの中心選手が続々と去り、チームの平均年齢が若返った。チーム最年少で17歳のFW髙橋佑奈とは、25歳の年齢差がある。ジェネレーションギャップはあるが、「サッカーに年齢は関係ないから」と積極的に接している。安藤なりに、工夫していることがある。

「若い選手は『緊張しているのかな』とわかるので、自分から話しかけたり、質問をしたりして、こちらからコミュニケーションを取っています。私も若手の時に(先輩との関係に)ドキドキしていたので気持ちがわかるから(笑)」

 昨季途中から指揮を執る堀孝史監督からは、安藤は「自分の特徴をすごく理解してもらっている。普段の練習の中でも、1つ1つのプレーに対してアドバイスをくれるので、しっかり耳を傾けていきたい」と信頼を置く。

チームの目標はシンプルに、「国内制覇」だ。昨シーズンはWEリーグ優勝を逃し、3連覇はならなかった。ガラリとメンバーが変わったが、リーグ戦では13試合6失点と堅い守備で2位につけている。(11月25日時点)

 開幕早々に復帰を果たした安藤だが、ここまで2試合に出場。チーム内の競争が激化して、ベンチ入りできないこともある。しかしその状況も「楽しんでいる」と、笑顔で語る。

「レッズは優勝を目指しているトップのチームだし、代表選手もいます。その中で試合に出ていくのは、そう簡単じゃない。でも、そこでやれていることも幸せだと思うし、自分もその中で『まだまだ成長したい』って思うし、日々チャレンジして『自分らしさをこのチームで出していきたい』ということに燃えています」

 心のうちにある情熱の炎は、鎮火する様子はない。2002年にデビューをしたL・リーグ(現・なでしこリーグ)時代から女子ブンデスリーガ、WEリーグまで、23年間もトップリーグでプレーを続けてきた。今日も、自分の伸びしろを信じ “必死で”ピッチを駆けている。

(砂坂美紀 / Miki Sunasaka)



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