“未招集”が24歳にもたらした恩恵「伸びしろしかない」 ベンチ外の試合も…初ゴールに必要だった能力

鈴木唯人に期待されるプラスαの効果
今夏デンマークリーグのブレンビーからブンデスリーガのフライブルクへと移籍した日本代表MF鈴木唯人。開幕から2試合連続でスタメン出場を飾った24歳だが、その後はベンチ生活を余儀なくされていた。メンバーから外れた試合もある。心配する声が少なからずあるものの、本人はいたって冷静に現状を受け止めていた。
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「特別それに対してネガティブに考えることは全くなくて、こういうことはほかのチームでのはじめのころに何回も経験している。このあと必ずよくなるというのは分かっています。僕自身、完璧な選手ではない。まだ伸びしろしかない。監督とコーチ陣に求められていることを、毎日練習でトライしながら、一歩ずつ成長に向けてずっとやっています。今後はだいぶそういうのが現れてくるんじゃないかと思います」
10月19日に行われたブンデスリーガ7節のフランクフルト戦で後半19分から途中出場でピッチに立った鈴木が、試合後そう話してくれた。公式戦7試合ぶりとなった出番に、鈴木は躍動感あるプレーの連続でアピールした。
「交代選手で新しいエネルギーをピッチにもたらそうと思っていた」と試合後に振り返っていたユリアン・シュスター監督の狙いをピッチ上で表現しようと、攻守に走り回る。
出足が鋭い。対峙する相手との距離を一気に詰めて懐に飛び込むと、身体をぶつけてデュエルに挑む。競り合うだけではなく、うまく体を当ててボールを奪い取るシーンがいくつもある。「感覚としては、自然に体が動くようになってきました」と手ごたえを鈴木も口にしていた。
2節ケルン戦を1-4で完敗した後、シュスター監督は「サッカーにおけるベーシックを取り戻さなければならない」と語り、直後の代表中断期を利用して、フライブルクDNAは何たるかに集中的に取り組み、そこからフランクフルト戦まで8試合連続公式戦負けなしと自分達らしさを取り戻した。
ただこの期間、代表でチームを離脱していた鈴木にとっては難しい状況となっていたのは否めない。アップをしても声がかからない。フライブルクはチーム全員でハイインテンシティのプレーをするのが大事なベース。元フライブルク監督のクリスティアン・シュトライヒが「どの試合でも最大限のハードワークをして初めて、我々には勝ち点を手にするチャンスが生まれる。ブンデスリーガを戦うのは、それほど難しいことなのだ」と話してくれたことがある。
だからこそ、10月の代表シーズンは未招集となり、フライブルクでチームとともに取り組むことができたのは、鈴木にとって大事な時間となったに違いない。2部カールスルーエとのテストマッチには唯一フル出場を果たし、1得点もマークした。
「練習自体の強度も高いですし、自分自身いつ出てもパフォーマンスを出せる準備はできていました。トレーニングマッチがあって、体も動くようになったので、それはよかったです」
チームにフィットしてきているという確かな実感があったからこそ、シュスター監督も起用した。それは鈴木によってプラスαの効果が期待されているからでもある。
ベースとなるインテンシティ、戦術的規律だった戦いは取り戻した。だが、昨季と比較して決定的な違いがある。それは堂安がいないという点だ。1人でいくつものタスクをハイレベルでこなすだけではなく、前線で違いを生み出すプレーをしていた堂安の穴は、そう簡単にはうめられない。フランクフルト戦でもボール奪取、ボールポゼッションまではよくても、シュートシーンまではなかなか持ち込めない時間帯が続いていた。スイス代表MFヨハン・マンゾンビの仕掛けへ依存している傾向がぬぐえない。どこかで変化が必要だ。前を向いてボールを持った時の鈴木から、ゴールの予感が生まれてきたら、フライブルクは大きな可能性を手にすることになる。
「求められているベースがある中で、自分は攻撃の選手なので、コーチ陣からはそれプラスで攻撃面でのクリエイティブのところだったり、(ゴールやアシストの)結果というところが求められてくると思っています」
続くヨーロッパリーグのユトレヒト戦ではトップ下でスタメン出場を果たすと、20分に先制ゴールをマーク。左サイドからの折り返しをフリーで受けると、右足ダイレクトで綺麗に流し込んだ。これがフライブルク移籍後、公式戦では初得点となった。2点目となりそうな惜しいシュートもあり、大きなアピールに成功したといっていいだろう。
起点となるパスを出した元イタリア代表MFビンツェンツォ・グリフォは「全体的に素晴らしい前半だった。左サイドでギュニー(ギュンター)とのコンビでチャンスを作ってうまくスペースにパスを出せた。ユイトがうまく決めてくれたね。チームとしてスムーズにボールを回せたし、いいサッカーができた」と振り返っていたが、チームとして攻守の機能美が戻ってきたことで、今後オフェンス陣がより自分達のタイミングで仕掛けることができそうだ。
ここから鈴木の活躍が始まるに違いないー。そう予感させるには十分な初ゴールだった。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)

中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)取得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなクラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国で精力的に取材。著書に『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。





















