「外すな」の叱咤なし 元Jリーガーが伝授…人生を変える“逆算のゴール哲学”

子供たちの育成に携わる長谷川太郎氏(後列一番右)【写真:轡田哲朗】
子供たちの育成に携わる長谷川太郎氏(後列一番右)【写真:轡田哲朗】

元Jリーガーの長谷川太郎氏、次世代ストライカー育成のため日々指導

 ヴァンフォーレ甲府に所属した2005年にJ2で日本人最多得点をマークした長谷川太郎氏。引退後の現在は一般社団法人TREを設立して次世代のストライカー育成のために様々な活動を行っている。自身もストライカーコーチとして子供たちの指導にあたる日々。ストライカーアカデミーの品川校での指導では、ゴールを決めるための具体的な技術の指導だけでなく、失敗も糧にする思考法も伝えられていた。(取材・文=轡田哲朗/全3回の2回目)

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

   ◇   ◇   ◇   

 長谷川氏が子供たちに指導するなかで、たびたび耳にするのが「(GKに)おへそを隠す」という言葉だ。ファーストタッチでバックスピンをかけながら良い位置に置いたうえで、ゴールに対して横を向いた状態で、左右どちらにも蹴り分けられる技術が求められる。

 その背景には、自身が現役時代にゴールから遠ざかった経験がある。「決めたいと思って慎重になってしまうと、シュートまでの動作が遅くなってしまう」といった身体の動きに原因があるという。

「シュートを打つ時にゴールを両目で見てしまうと、シュートを蹴り分けられなくて、読まれてしまうんです。横を向いても結構、右も左も蹴り分けられますし、間接視野で見られればシュートまでの動作時間が早くなるんです。調子が悪い時のシュートに関して言うと、入らない時は本当に慎重になって、両目で見て、結果的にGKに読まれる方向に蹴ってしまう。これは本当、どの選手も一緒です」

 横を向いた状態で正確にゴールの枠を捉え、かつ左右に蹴り分けるために指導の現場で教えられているのが、ボールを蹴る位置に番号をつけるという方法だ。自分から見て手前から順に、1番・2番・3番と振られ、例えばゴールに対して右を向きながらゴールの左サイドを狙う場合には「3番(=ボールの右側)を蹴る」といった表現がされていた。

 長谷川氏は「何番に当てて、どうやってフォロースルーを持っていくか。それでコントロールが良くなるので、知っておけば違うんです」と語る。

 さらに「右足で3番を蹴りたいと思ったら、軸足が遠いと当たらないから少し近づける。そのうえでフォロースルーはどのように持っていくか、そうした細かい部分も伝えています。それほど難しいことではないんです。ただ、軸足のつま先の向き、蹴る位置、フォロースルーと、1個1個のパズルを正しく組み合わせていかないといけない」と続ける。こうした技術を身につけるには順序があるという。

「考えたことはしっかりと身体に伝わりますし、長くやっていると自然にできるようになるんです。知識→意識→無意識の順で定着させていく。まずは知識を1つずつ伝えて、それを意識してもらい、無意識にできるようにしてもらいます」

失敗は次につながる成長の糧「逆算と分析をする頭の回路は作れる」

 もちろん、指導を受けた子供たちが簡単に実現できない場合もあるが、プレーの内容に踏み込んだ指導がなされている点は特徴的だった。例えば、ファーストタッチがズレてシュートの際に身体がゴールの正面を向いてしまえば、たとえ良いコースにボールが飛んでも“結果オーライ”のような声はかからない。また、「ボールに当てる場所は良いけれど、振り抜きがこうだったから外れた」という具体的なフィードバックも与えられる。

 一方で、サッカーの指導現場でよく耳にする「しっかり決めろ」「外すな」といった抽象的な叱咤は聞かれなかった。そこには、失敗の背景にある原因を分析する重要性があると長谷川氏は明かす。

「失敗した時に、『なんで失敗したんだ』や『なんで決めないんだ』ではなく、『足のここに当たらなかったから』や『軸足のつま先がきちんと抜けなかったから、シュートの腰が回らなかった』といったように具体的に分析すると、失敗は単なる失敗で終わらず、次につながる成長の糧になります。

 サッカーを通じてこうした考え方を知ることができれば、他の場面でもゴールからどう逆算するか、上手くいかなかったらどういうふうにすればいいか、そういう逆算と分析をする頭の回路は作れると思うんです。

 その考え方をしっかりと身につけてもらえると、ゴールを決めるため、ストライカーとしての基盤が作られていきます。そういったところをしっかりと伝えられるように、それは一緒に活動をしているストライカーコーチたちにも伝えています」

 このアカデミーはチーム単位の活動ではなく、個人にフォーカスしたトレーニングを提供している。参加した子供たちは、ここでストライカーとしての技術を磨き、それぞれの所属チームに戻って試合に臨むことになる。長谷川氏は、そうした練習が育むメンタリティーの重要性にも触れる。

「もちろん技術も大切ですが、この練習を通じて『自分のチームで、こういうふうにゴール決めよう』というイメージが湧くようになればいいですよね。これだけ練習しているんだから、試合で絶対に決めてやるというメンタリティーが自然と生まれてくるはずです。だから、そうした気持ちを持ってくれるようになったら嬉しいですね。これが習慣になって、『このシュートを自分が決める。そのためにサッカーをやっている』と、自分の気持ちの面で変わってくれたらいいなと。1つのゴールって、本当に人生を変えると思うんです」

 実際、長谷川氏も“1つのゴール”で人生が変わった1人でもある。プロサッカー選手になるきっかけとなり、そして現役生活をつなぎとめたターニングポイント――そのストーリーを振り返ってもらった。

(轡田哲朗 / Tetsuro Kutsuwada)



page 1/1

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング