日本中を沸かせた8年前…高校スター選手の今「Jに戻りたい」 J1相手に見せつけた実力

JFL青森のGK廣末陸、PKで先制点&完封「上のカテゴリーでサッカーがしたい」
8年前に高校サッカー選手権で日本中を沸かせた守護神が、ジャイアントキリングの立役者となった。6月11日に行われた天皇杯2回戦で、J1リーグの横浜F・マリノスはJFLのラインメール青森と対戦して0-2で敗れた。仮にこの試合でMVPを選ぶことになっていたら、GK廣末陸は万票に近い票を集めていただろう。何せ守っては3つカテゴリーが上のクラブを完封し、先制点を決め、追加点の起点にもなったのだ。
【PR】ABEMA de DAZN、日本代表選手の注目試合を毎節2試合無料生中継!
2017年1月、青森山田は初の高校サッカー選手権優勝を成し遂げた。その時の正GKが廣末だった。U-19日本代表にも選出され、FC東京入りも内定していたGKは、守備ではもちろん、卓越したキックの技術や飛距離で大きな話題となった。その後、Jリーグのクラブでは出番が得られず、2021年からは青森に完全移籍していた。
「J1のクラブと公式戦で対戦したのは今回が初めてだった」と言う26歳の廣末は、あらためてポテンシャルの高さを見せつけた。序盤、青森はイージーミスが目立った。JFLのレベルがこれくらいなのかと思わされたが、緊張による固さだった。ミスでボールを失い、ピンチもあったなかで廣末はMF天野純のヘディングやFWエウベルとの1対1を防ぐなど、悪い流れの時間を無失点で切り抜けるために不可欠な大活躍を見せた。
攻撃面でもチームが挙げた全2得点に関与する。自らが決めたPKも、もともとは廣末のロングキックを起点としている。相手左サイドバックのミスを誘発した2点目も廣末のキックが始まりだ。サッカーが進化していき、これまで以上にGKの足元の技術が求められるようになっているなかで、あらためてJFLレベルではないGKであることを天皇杯の舞台で示すことができた。
試合後には対戦した横浜FMのサポーターからも、大きな拍手と「がんばれ!」という声援を受けた廣末は「勝ててホッとしています」と記者団の前で試合後の第一声を放ち、「年間を通じて上のカテゴリーと試合ができるのは天皇杯しかありません。もっともっと上のカテゴリーでサッカーがしたいなという気持ちにあらためてなりました」と続けた。
今シーズン、青森はリーグ戦で7勝4分と無敗を維持して首位に立っている。「リーグ戦では負けていないですし、自信があったのでやっていることは変えずに、自分たちのサッカーを臆することなく見せていこうというプランで臨みました」と、試合前のプランを明かす。
今シーズンからチームを率いている原崎政人監督は、この試合でもPKキッカーを廣末が務めることは「知らなかった」と笑ったが、4シーズン前に味方がPKを外し続けていたことから、キッカーを務めることになった廣末は試合前から決まっていたと言い、「先に動いたのが見えたので、普通に流し込みました。決められて良かったです」と、今シーズンの初ゴールに笑顔を見せた。
2点目の起点になったキックについても「チームとしての戦術でも、うちは5バックで相手が4バックなら、あそこは空いてくるのでそこをうまく突くことができてゴールにつながったので、よかったです。(キックは)武器としてやっているので、もっと精度を高めて上のカテゴリーで勝負できるようにやっていきたい」と、語った。
約9分間のやり取りのなかで、廣末は「上のカテゴリー」という言葉を何度も口にした。このままの順位を保てれば、チームとしてのJ3昇格を目指すことができることになるし、天皇杯で勝ち上がれば個人にオファーが届いても不思議ではないだろう。
FC東京の下部組織育ちの廣末だが、ジュニアユース時代の同期には現在もFC東京のGK波多野豪、川崎フロンターレのGK山口瑠伊がいる。「自分たちの同い年がJ1で試合に出ているので、そこには負けられない。もっともっと上のカテゴリーでサッカーができるように日々、練習していきたい。僕も青森に来て5年目になりますが、けっこう長い時間になりましたがJリーグに戻りたいですし、青森っていうチームをJリーグに引っ張れたら一番良いと思う」と気を引き締める。
3つカテゴリーの上の横浜FMの勝利は、チームにとって大きな自信にもなるはずだが、廣末が口にしたのは警戒心だった。「こういう試合に勝ったあとは、リーグ戦があまりよくなかったりするし、そういう難しいシチュエーションになったりするので。まずはリーグ戦はリーグ戦として戦って、そのなかでまた天皇杯が入ってくる、目の前の1試合1試合で良い準備ができればいい」と、勝利に酔いすぎないことの必要性を訴えた。
下のカテゴリーにも光るタレントがいることを、あらためて示した廣末だが、再びJリーグの舞台に戻るために、本当に重要な戦いは再注目をされたきっかけを作ったここからになることも理解しているはずだ。
(河合 拓 / Taku Kawai)