伝統の10番剥奪も「期待を感じた」 選手権出場“ゼロ”から再出発…新番号に託されたメッセージ

静岡学園MF山縣優翔「信頼というか、期待を強く感じました」
年代別日本代表の経歴を持ち、期待のスーパールーキーとして鳴り物入りで静岡学園にやってきた技巧派MFは、チームの激しい競争と突きつけられた課題の前に何度も挫折を味わってきた。
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大阪の強豪・千里丘FCからやってきた山縣は、広い視野と高いサッカーIQ、そしてキープ力とパスセンスを駆使して、1年生でプレミアリーグWESTに8試合出場。2年生になった昨年はかつて大島僚太、旗手怜央、古川陽介らが背負った10番を託され、攻撃の中枢としてプレミアWESTに20試合出場をした。
しかし、全国高校サッカー選手権大会での出場時間はゼロ。登録された背番号は10番ではなく、16番だった。
「悔しかった。守備面やフィジカル面はずっと指摘されていましたし、自分の中でも課題としてやらないといけないと思っていました。もちろん僕の良さは攻撃にあるので、そこをもっと出そうともしましたが、うまくいかなかったのも事実。ミスをすると消極的になってしまったりしていました」
同い年の24番を背負ったMF篠塚怜音が台頭するなど、ライバルが調子を上げていく中、絶対的な存在だったはずの彼がスタメンを外れる機会も増えていった。そして選手権予選ではスタメン落ちとなり、1分も出場できぬまま、チームの優勝を見届ける形となった。
プレミアWESTでも予選後の3試合全てベンチスタートで、最終戦はついに出番はやってこなかった。
そして前述したとおり、ベスト8に入った選手権本戦でも出番はゼロ。10番は3年生のMF堀川隼(東京学芸大)のもとに渡った。さらに篠塚が不動のMFとしてチーム最多の3ゴールを挙げる活躍を見せ、U-17日本高校選抜に選ばれるなど一躍注目の存在となった。
「ずっと10番を取り返したいと思ってやっていました。セカンドチームの試合に出た時もコーチに積極的に意見を聞いて、守備面の強化を意識しました。選手権が終わってからも、映像を見たりしてセカンドの回収やボールを刈り取るポジショニングやタイミングなどを意識して取り組みました」
3年生になった今年、プレミアWEST開幕前に背番号は川口修監督から発表されると、10番は篠塚の名前が読まれた。だが、自身が告げられた番号に驚きとともに強烈なメッセージを感じたという。
「5番と言われたときは、10番ではなかった悔しさよりも、信頼というか、期待を強く感じました。川口監督は新チームになってから僕をボランチの底、アンカー的な部分で起用してくれようとしていたので、『守備で貢献してほしい』というメッセージを添えて僕に守備的な番号を与えてくれたのかなと思いました。10番じゃなくなってから、自分を見つめ直せる貴重な時間になったと感じていたので、5番と言われた瞬間に『背番号が変わっても、自分が取り組むべきところと武器は変わらない。どちらでもレベルアップできるように、チームの勝利に貢献できるように頑張ろう』と心から思えました」
「信頼される5番になるべく、もっと努力していきたい」
突きつけられた現実を受け止めることができたことで、彼の中から迷いは消えた。プレミアWESTではボランチ、インサイドハーフとして攻守において成長した姿を見せた。3試合ほどスタメンから外れることもあったが、彼は「スタメンだろうが途中出場だろうが、役割をきちんとこなしながら持ち味を出すことに集中した」とベンチでは毅然とした態度で出番が来たときの準備をし続けた。
そしてインターハイ予選前のプレミアWEST第9節のヴィッセル神戸U-18戦でスタメン出場をすると、インターハイ予選ではトップ下でスタメン出場を続けた。
6月1日に行われたインターハイ予選準決勝のライバル・浜松開誠館戦。山縣は足元のスキルとパスセンスだけではなく、素早い攻守の切り替えで高い位置からプレスをかけてボールを奪ったり、アタッカー陣をサポートしたりと、豊富な運動量で攻守に関わり続けた。しかし、ゴールをこじ開けることができず、スコアレスで試合が進むと、54分(40分ハーフ)に交代を告げられた試合はそのままスコアレスで終了し、PK戦へ。ベンチから祈るように見つめたが、思い届かず準決勝敗退を喫した。試合後、彼は人目を憚らずに号泣していた。
「勝ちたかった。純粋にただ勝ちたかった。決定機を作り出せなかったし、最初の交代カードになってしまった。僕がもっとこのチームに良い影響を与えられる存在だったら、あそこで代えられていなかったと思う。本当に不甲斐ないし、みんなに申し訳ない気持ちでいっぱいです」
悔し涙は昨年から何度も味わってきた。だが、これまでの悔し涙と今の悔し涙はまったく違う。余計なプライドを捨て、ただ自身の成長のためと、期待して5番を託してくれた川口監督をはじめとしたスタッフ、そして一緒に戦う仲間たちのために本気になれているからこそ、流せる涙だった。
「こうして試合に出させてもらっていることに感謝していますし、ピッチに立った以上は戦わないといけないし、背負わないといけない。まだまだ甘いので、もっと信頼される5番になるべく、これからもっと努力していきたいと思います」
その表情は一段と逞しさを増していた。心身ともに成長を続けている男の己との誇り高き戦いは、もう1つステージを上げて始まろうとしている。
(FOOTBALL ZONE編集部)