スタジアム効果で「満員状態」→クラブ力アップ 西日本に続々誕生も…広がりつつある”格差”

広島をはじめ新スタジアム建設が続く西日本【写真:Getty Images】
広島をはじめ新スタジアム建設が続く西日本【写真:Getty Images】

サンフレッチェ広島は2024年に新スタジアムを使用

 2024年のJリーグ58クラブの収支決算が27日に発表され、2年連続売上高100億円突破の浦和レッズを筆頭に、80億円超のクラブが4チームも出るポジティブな状況となった。

【PR】DAZNを半額で視聴可能な学生向け「ABEMA de DAZN 学割プラン」が新登場!

 この中で、特に目を引くのが、初めて売上高が80億円を超えたサンフレッチェ広島だ。広島ビッグアーチ(現ホットスタッフフィールド広島)を本拠地としていた2023年までは40億円規模のクラブだったが、2024年に広島市内中心部のエディオンピースウイング広島が完成。そちらにホームを移した途端、売上高が倍増したのだ。

 特に入場料収入が2023年の6億3100万円から20億400万円にジャンプアップした点はインパクトが大きい。1試合当たりの平均入場者数が1万6128人から2万5609人に増えた以上の売上アップが実現しているのだ。

 以前、昨年末まで社長を務めていた仙田信吾現会長に話を聞く機会があったのだが、「サンフレッチェのホームゲームは平日ナイターでも満員状態が続いたうえ、WEリーグのレジーナの集客も大幅に増えました。繁華街に近く、使い勝手のいい環境にあり、貸出可能な48の部屋もあるため、会議や商談、パーティー、展示会や入社式、ウエディングといった各種イベントにも積極的に活用されています」と前向きに話していた。

 サッカー以外の利用価値が大きいからこそ、日常的に訪れる人々も増え、劇的な収入アップにつながっている。2025年はAFCチャンピオンズリーグ・エリート(ACLE)の試合も加わるため、より一層、数字が伸びるかもしれない。

 広島が顕著な例ではあるが、近年は西日本に魅力的なスタジアムが次々と誕生している。口火を切ったのが、2015年10月にオープンしたガンバ大阪の本拠地・パナソニックスタジアム吹田。旧ホームの万博公園競技場の方がモノレールの公園東口の目の前にあるため、アクセス的には恵まれていたが、ららぽーとEXPOCITYが隣接し、日常的な集客が見込める場所という意味では魅力がある。

 同スタジアムの臨場感や使い勝手のよさを日本サッカー協会も高く評価しているのか、関西で日本代表戦を開催する時はここがファーストチョイス。毎年1回は確実に試合が行われている。

 ガンバの集客も2024年はJ1・4位と躍進した効果もあって、1試合平均入場者数は最多だった2019年の2万7708人に次ぐ2万6096人を記録。入場料収入も11億8500万円に到達した。今季は現時点で2万8617人と過去最高ペースで推移しており、このままいけば収入も最多になるかもしれない。その勢いはクラブ力のアップに直結すると言っていい。

 それは、2014年10月にピーススタジアム (略称=ピースタ)がオープンしたV・ファーレン長崎にも言えること。彼らの場合、J2に在籍していながら、2024年の入場料収入が前年の1億8200万円から5億4800万円と約3倍増となった。新スタジアムで試合をしたのは10月以降だから、その効果は凄まじい。今季の入場料収入アップがどれほどになるか想像がつかないほどで、クラブの運営基盤拡大に寄与するのも間違いない。

 2020年からサンガスタジアムに移った京都サンガFCがJ1に定着し、年々順位を上げているのも、新スタジアム効果と無縁ではないだろう。そういった流れが西日本で加速していることを、関東を含めた他地域のクラブは危機感を持って見つめているはずだ。

スタジアム格差がクラブ経営にも直結する

 関東にはJ最大のビッグクラブである浦和、常勝軍団復活を目指す鹿島アントラーズ、今季は最下位に沈んでいるものの、名門にほかならない横浜F・マリノスといった有力クラブがあるが、彼らの本拠地はいずれも2002年日韓ワールドカップ(W杯)前に建設、改修されたもの。

 サッカー専用の埼玉スタジアムやカシマサッカースタジアムが完成した当時は「日本にこれだけの規模と見やすさを兼ね備えた専用競技場ができた」と嬉しく感じたものだが、あれから25年近い年月が経過。どちらも少し古さが感じられるようになってきた。

 それでも国際大会実施可能な基準をクリアしているからまだいいが、横浜FCの本拠地・ニッパツ三ツ沢球技場や湘南ベルマーレの本拠地・レモンガススタジアム平塚などは老朽化が著しく、取材ゾーンが不十分だったり、インターネット環境が脆弱だったりする。多くの観客が集まる試合中には携帯電話もつながりにくくなってしまう。特にニッパツは専用球技場ということで見やすさと臨場感は称賛に値するが、付帯施設に関しては改善の余地がある。やはり“スタジアム格差”は広がっていると言うしかない。

 今のJリーグは資金力が必ずしも成績に直結するとは言い難いところがある。が、中長期的に見れば、徐々に差は広がっていくと見られる。快適で使い勝手のいいスタジアムがあるか否かはそれを大きく左右する。そのことが2024年のJリーグ決算でも示されたのではないか。

 スタジアムに関しては、自治体や地元企業などの考え方も大きく影響するため、すぐに近代的な施設にリニューアルできるわけはないが、優れた環境を持っている方が有利なのは間違いない。新スタジアム建設を求めるクラブは全国各地にあるが、いかにして目の前のハードルを超え、理想に近づけていくのか。スタジアムという観点を重視しつつ、全国各地のクラブの今後を冷静に見極めていきたいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



page 1/1

元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

今、あなたにオススメ

トレンド

ランキング