J選手が異例の訴え「正式オファーない」 移籍報道に困惑…状況悪化で決断「しっかり話そうと」【コラム】

ジャーメイン良が自らの移籍噂について言及【写真:Getty Images】
ジャーメイン良が自らの移籍噂について言及【写真:Getty Images】

磐田エースのジャーメイン良、噂レベルの海外移籍報道に自ら言及

 現在J1で18位のジュビロ磐田は今週末の8月25日、ホームのヤマハスタジアムで北海道コンサドーレ札幌との試合を迎える。残り11試合、いわゆる“残留争い”が現実になっているなかで、勝利のためのゴールにこだわるのが、今シーズン15得点を記録しているFWジャーメイン良だ。

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 出場停止明けだった前節のFC町田ゼルビア戦では立ち上がりのコーナーキック(CK)からリードを許す苦しい展開で、チームに反撃のゴールをもたらすことができないまま0-4の大敗を喫した。ジャーメインは「正直、力負け感が。シンプルに組織でも個でも負けてたので。首位のチームに力で負けたということだと思うので、しっかり切り替えていきたい」と語るが、札幌戦で前向きな要素になり得るのが“相棒”マテウス・ペイショットの復帰だ。

 第25節のアルビレックス新潟戦(2-2)で一発退場となったペイショットは「冗談ですけど、今でもあのレッドカードはなかったんじゃないか笑」と前置きしつつ、2試合欠場したことでメンタル的にフレッシュな状態で、札幌戦に臨めることを前向きに捉えている。ジャーメイン、ペイショットに加えて、夏にセレッソ大阪から加入したFW渡邉りょうがいる前線の戦力は充実しており、起用法を巡って横内昭展監督にとっては嬉しい悩みになっているだろう。

 新潟戦では相手を追いかける流れで、4-3-3というシステムの前線中央にペイショット、シャドーにジャーメインと渡邉が並ぶという超攻撃的な布陣が実現した。ただ、そこから間もなくペイショットが退場したことで、10人になった磐田はそのままジャーメインと渡邉が前に出て、4-3-2に変更しており、3人が同時にピッチに立った場合の効果を新潟戦で検証することはできなかった。

 勝負のカードを想定しても、スタートから3人のアタッカーが並び立つことは考えにくいが、だからこそ組み合わせに応じて起こる変化が、対戦相手には読みにくく、脅威になっていきそうだ。ジャーメインは「誰と出るか、誰と誰が出るかでタイプが全く違うし、良さも違うと思うので。お互いの良さを引き出して、相手の脅威になっていきたいと思います。練習から準備して行って、本当に相手にとって一番脅威になっていければ」と語る。

 町田と違い、マンツーマンで前からハメに来る札幌の守備に対して、ジャーメインは「やっぱり1人1人が動いて、ランニングしてスペースを作るとか、使うとかそういうところ。単純に言えば相手はマンマークなので。自分のところで1枚剥がせればどんどんスペースを作って行ける」とイメージしており、まず1人1人が自分のところで相手に勝つ、その積み重ねが結局は決定的なチャンスにつながることは間違いなさそうだ。

「しっかり話そうと思っていました」とサポーターに向き合う姿勢を見せた【写真:徳原隆元】
「しっかり話そうと思っていました」とサポーターに向き合う姿勢を見せた【写真:徳原隆元】

「僕が一番信頼してないのは」…1人歩きした報道に苦言

 20位から逆転残留を目指す札幌を叩いて、浮上のきっかけを掴みたい磐田だが、エースのジャーメインにとって気掛かりな騒動が、ここ数日のSNS上で起きていた。FW大橋祐紀が加入した英チャンピオンシップ(イングランド2部に相当)のブラックバーン・ローバーズがJリーグの得点ランキング2位タイに付けるジャーメインの獲得に動いているという情報が、現地から流れてきたことだ。

 それに応じてSNS上で移籍情報を発信する国内の匿名アカウント、さらには海外の2次情報を記事にする一部の国内メディアまで、移籍の可能性を報じた。その中には正式のオファーが届いて、合意に達しているかのような言動もあり、磐田のサポーターにも少なからず動揺が見られた。しかし、ジャーメイン本人によると、そのようなオファーは現時点で届いてもいないという。

「僕が一番信頼してないのはネットの移籍情報と推定年俸と残りの契約年数。この3つは正直、信用できないと思います(笑)」

 そう切り出したジャーメインは“自分の話せる範囲”と前置きしたうえで「なんか合意したとか出てましたけど、正直、正式なオファーは来てないので、合意しようがない」と強調した。もちろんサッカー選手として、海外の高いステージでプレーしてみたいという思いはジャーメインにもある。憧れだというイングランドなら、なおさらだろう。しかし、現実にオファーが来ていないのであれば、具体的に話を進めようがないわけだ。これに関しては藤田俊哉スポーツダイレクターもオファーが届いていない事実を認めている。

 もちろん、イングランドをはじめとした欧州リーグの多くは8月末まで開いており、完全に閉じるまでは予断を許さない。本来このような移籍に関する内情を選手が、メディアに明かす必要はない。仮にそうした情報を選手個人から聞いたとしても、記者側としては情報の取り扱いには細心の注意を払う。それが現場の信頼関係であるからだ。今回ジャーメインが進んで口を開いたのには明確な理由があった。この移籍の噂がネットに流れてから、色んな声をジャーメインも目にした。その中に、彼が受け入れ難いメッセージが含まれていたという。

「僕が町田戦で“怪我をしたくないから、力を抜いてプレーしてた”みたいなメッセージとか、ちょっと来たりとか。見えたりとか。それは本当に残念というか、ないので。本当にそうだったら、僕出てないので。そういうものは一切ないし、僕は今までどおり、毎試合、毎試合、目の前のゲームに向かってやっている」

 これまで全力で、ゴール1つ1つを磐田の勝利のために捧げてきたジャーメインにとって、力を抜いてプレーしているというのは受け入れることができなかった。そしてなにより、真実ではない情報に惑わされて、現場の選手やスタッフはもちろん、後押しするサポーターが目の前の大事な試合に集中できない状況を変えることが必要だとジャーメインは考えた。

「僕も変な目で見られながら試合に出るのが嫌ですし、サポーターも100%、そこ(札幌戦)に気持ちが向けないんだったら、しっかり話そうと思っていました」

 本来こうした選手が正式なリリースのない段階で、移籍情報に関して語るケースは異例であることを前置きしておきたいが、今回はジャーメインの英断をリスペクトして、筆者も記事に載せることにした。まずは札幌戦でサポーターの100%、120%の後押しを受けた磐田のエースが思う存分、躍動する姿を期待したい。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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