黒田監督は「プロの世界の中では珍しいタイプ」 町田主将が語る「根本を一度も緩ませない」手腕【インタビュー】
主将の昌子も「いい意味で想定外」だった前半戦首位ターン
FC町田ゼルビアはJ1リーグ昇格初年度の今季、前半戦を首位で折り返し、J1初挑戦・初優勝の快挙も少しずつ現実味を帯びている。移籍1年目でキャプテンを務める31歳のDF昌子源は、黒田剛監督の下で快進撃を続けるチームで間違いなく中心にいる。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・小田智史)
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黒田監督を招聘した昨季、J2で圧倒的な戦いぶりを見せ、クラブ史上初のJ2優勝とJ1昇格を果たした町田。オフに昌子、日本代表GK谷晃生、コソボ代表DFドレシェヴィッチ、韓国代表FWナ・サンホ、韓国代表MFオ・セフン、MF仙頭啓矢、MF柴戸海らを獲得してJ1初挑戦のシーズンに臨んだ。
町田は第4節北海道コンサドーレ札幌戦(2-1)以降、首位に立った回数は19試合中15試合と最も多く、第19節を終えた時点で勝ち点39(12勝3分4敗)と首位ターンに成功。23試合を消化して依然としてリーグ1位の座を守り、36得点(リーグ3位)、17失点(リーグ1位タイ)の成績を残している。
昌子は開幕3試合こそ欠場したが、ここまでリーグ戦19試合に出場して1得点をマーク。チームを牽引するキャプテンは、「J1首位ターン」について、「正直、予想できなかったことだと思います」と率直な感想を語る。
「黒田監督もおっしゃっていましたけど、出来すぎなくらい。誰が予想できたかと言うと、やっている選手たちも同じ意見で、いい意味で想定外でした。J1初挑戦となる今年の最初のミーティングで、黒田監督は『トップ5入りを目指す』と。あわよくばACL(AFCチャンピオンズリーグ)圏内を狙っていきたいということで、周囲から見たらかなり大きく出たなと思われる内容です。でも、仮にトップ10入りにしてトップ10入りが見えたら、そこで絶対に緩みが出てしまう。黒田監督は決して簡単ではないとしつつも、『目標はあえて高く設定しないといけない』『J1でやるからには残留争いをする気はない』と説明されていました」
昌子は「なかなか強気に出たなと思いました」と明かしつつ、「僕らも満足しているかと言ったら満足はしていない」と黒田監督のスタンスに同調する。
「前半戦に関してよくやったと言ってくださったし、僕らも手応えはありましたけど、『ここで満足するな』というのが黒田監督。誰も満足はしていないから、後半戦も3勝1分と素晴らしい滑り出しができたと思います」
昌子が感じる黒田監督とほかの指揮官の違いは?
今季の町田でトピックの1つは、公式戦で連敗がないこと。敗れたあとに迎えた第7節川崎フロンターレ戦(1-0)、第9節FC東京戦(2-1)、第11節柏レイソル戦、ルヴァンカップ・プレーオフラウンド第1戦セレッソ大阪戦(3-1)、第18節横浜F・マリノス戦(3-1)では、しっかりと勝利を収めている。J2を戦った昨季も連敗はなく、黒田監督体制では2試合連続の黒星はないということになる。今季から加入した昌子も、「去年から連敗がないのは本当に凄いと思います」と話す。
「勝負ごとで、当然勝ち負けがある。やっている選手も連敗はしたくない。負けたあとの試合は大事で、気持ちも引き締まりますけど、僕がいた鹿島(アントラーズ)やガンバ(大阪)時代を考えても、FC町田ゼルビアが特別変わったことをしているわけではない。プロの監督になる人は全員負けず嫌いで、僕の中では黒田監督が特別という印象ではないですが、言葉や行動に関して、失点や負けに対するアレルギーは一番強い。それが少なからずチームに伝染していると思います」
昌子は、「僕はまだこのチーム、黒田監督と一緒にやって半年ですけど、去年からやっている選手たちもなぜ連敗しないのか、(その理由は)あまり分かっていないかもしれないですね」と笑う。
「連敗しないのはたしかに凄いけど、記録上連敗をしていないと言われるだけで、1回は負けている。僕らが普通に勝っている試合も、連敗が懸かった試合と同じくらいの強度を出せているから勝てている。勝負は相手がいることで、噛み合わせ、相性もあるけど、理想はそこの負けすらもなくしたい。連敗した時の黒田監督を誰も知らないんです。ただでさえ、一度負けたらピリッとして、『こんなんじゃダメだ』とおっしゃる方。2連敗、3連敗したらどうなっちゃうのかなって。だからと言って、それ(怒る監督)を見たくはないですよね(笑)」
黒田監督は高校サッカー界の名門である青森山田高で28年間指導し、2023年から自身初となるJクラブで指揮を執る。鹿島、G大阪、フランス1部トゥールーズ、日本代表でさまざまな監督を見てきた昌子だが、「(ほかの監督と)違いは感じる」という。
「監督にはそれぞれの“色”があるなかで、黒田監督は高体連が長かったので、練習1つ取っても高体連チックというか高校生のような感じはあります。プロの世界はできて当たり前のことはあまり言われない。パスコントロールもそうだし、トランジション(切り替え)や強度は出して当たり前。僕がいた鹿島やガンバはなおさらそうで、監督やコーチが言わずとも、それをできている人の中からプラスアルファで自分の能力を発揮している選手が試合に出たりします。でも、黒田監督はトランジションのような当たり前のことを厳しくバーンと言う。練習から根本を一度も緩ませない。自分が持っている最大限を練習で発揮してほしいと。もちろん、ほかの監督さんも言いますけど、『そこが俺たちのベースだ』と軽く触れるくらい。黒田監督はプロの世界の中では珍しいタイプだと思います」
国立での横浜FM戦は「チームとしてかけがえのない経験になる」
すでに今季の戦いは後半戦に突入し、各クラブとは今季2回目の対戦となる。町田にはJ1初挑戦・初優勝の快挙が懸かるが、昌子は「僕らは先のことよりも、目の前の勝ち点3を取ることに集中しないといけない」と冷静に受け止める。
「同じ相手に2度勝てるほどJ1は甘くない。僕らがJ1首位ターンできたのは、前半戦の大半で勝つことができたから。僕らに最初の対戦で負けているチームとの対戦が多くなる。逆の立場だったら同じ相手に2度負けたくないし、対策や対応も変わってくる。まったく別のチームとは言わないまでも、補強でチームの変化が生まれてくるのが後半戦だと思います」
町田は7月20日に国立競技場で行われるJ1第24節で横浜F・マリノスと対戦予定。前回、国立でゲームがあった第7節ヴィッセル神戸戦(入場者数3万9080人)は1-2で敗れており、“聖地”で白星がほしいところだ。2022年のリーグ王者である横浜FMはここまで12位と苦しんでいるが、7月16日にハリー・キューウェル監督が契約解除となり、ジョン・ハッチンソンヘッドコーチが暫定的に指揮を執ることが決まっている。
昌子は「マリノスさんは近年、ずっとJリーグを引っ張ってきてくれた存在。マリノスさんと国立で対戦できることは、チームとしてかけがえのない経験になる」と語る。
「マリノスさんとは前回アウェーで勝利(6月15日の第18節/3-1)しましたけど、素晴らしいチームだし、オリジナル10の中で鹿島とともに降格をしたことがない。それだけ歴史があって、チーム力もある。アウェーで戦った時とは違うチームになると思いますし、Jリーグの順位でいれば僕らが上にいて、マリノスさんが下にいるかもしれないですけど、戦いが始まったら順位なんて関係ない。前回は(宮市)亮にゴールを決められましたけど、彼のスピードと技術は素晴らしいものがあるし、アンデルソン・ロペス選手らブラジル人トリオは強力。ちょっとしたきっかけで歯車は回り出すので、恐ろしい存在です。僕らはホーム扱いですけど、国立という特別な舞台。サポーターのみなさんはもちろん、選手たちもテンションが上がるので、何万人と入る中でやれるのは楽しみだし、ありがたい」
新天地・町田で充実のシーズンを送る昌子だが、「この移籍が正解だったと思わせるのは、結局は自分自身の活躍次第だと思います」と力強く語る。
「(古巣の)鹿島のことを気にして、申し訳ないと思っていたら、町田では活躍できない。このチームで活躍して、結果的に優勝できればその決断が正しかったと周りも思うはず」
町田が初のJ1タイトルを獲得するとなれば、キャプテンの昌子はさらに評価を上げることになりそうだ。
[プロフィール]
昌子源(しょうじ・げん)/1992年12月11日生まれ、兵庫県出身。米子北高―トゥールーズ(フランス)―G大阪―鹿島―町田。J1通算267試合・9得点。日本代表通算20試合1得点。スピード、対人守備、判断力、フィード力を兼ね備えた万能センターバック。ポルトガル代表FWクリスティアーノ・ロナウドやフランス代表FWキリアン・ムバッぺといった世界最高峰のアタッカーとの対戦経験を持ち、今季は新天地の町田でキャプテンとしてチームを牽引する。冷静な分析や言語化するセンスにも長ける。
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【試合情報】
開催日:2024年7月20日(土)
カテゴリー:J1リーグ第24節
対戦カード:FC町田ゼルビア vs 横浜F・マリノス
キックオフ時間:18:00
試合会場:国立競技場
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(FOOTBALL ZONE編集部・小田智史 / Tomofumi Oda)