欧州挑戦の毎熊晟矢に求められる課題克服 森保監督の要求に応え“C大阪の系譜”を継ぐ大物へ【コラム】
課題克服へ―欧州へステップアップが決定
「毎熊晟矢選手が海外クラブへの移籍を前提とした準備のため、チームを離脱することになりました。今後につきましては、現地でのメディカルチェックを経て正式契約を結ぶ予定となります」
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6月13日にセレッソ大阪から届いたニュースリリースにこう書かれていた通り、毎熊のオランダ1部AZアルクマール移籍が本決まりになりつつある。AZ側は同じく日本代表として1~2月のアジアカップ(カタール)に参戦した菅原由勢(AZ)の後釜として彼に白羽の矢を立てたと見られる。
2人の共通点はアグレッシブな攻撃にある。菅原もAZに赴いてからは一列前の右サイドハーフ(SH)をやっていた時期があるが、もともとFWの毎熊はよりゴール前への推進力を前面に押し出すタイプ。Jリーグの試合を見ていても、相手ゴールエリア付近まで侵入して自らシュートを放ったり、レオ・セアラやカビシャーバらにラストパスを送るなど「超攻撃的な右サイドバック(SB)」として一世を風靡している。
セレッソの小菊昭雄監督も、2022年カタールワールドカップ(W杯)で活躍したモロッコ代表のアクラフ・ハキミになぞらえ「和製ハキミ」と命名。本人も世界基準を追い求めて進化を続けていた。
その成果がアジアカップで出て、一時は菅原を抜き去って代表右SBのファーストチョイスに躍り出たかと思われた。
ところが、今季Jリーグ開幕後は森保一監督の評価が徐々に低下。3月シリーズは代表招集されたものの、北朝鮮戦(東京・国立)でベンチ外に。そして6月シリーズでは選外となってしまった。もちろん5月に怪我をして数試合欠場した影響は否めないが、問題点はそれだけではなかった様子だ。
「前回の北朝鮮戦でメンバー外になって、森保さんが持っている僕に対する課題と自分自身が考えている課題も一致していますし、それも伝えていただいた。自分自身、いろんなことを考えながら、ここ数か月やってきましたけど、上手くいかない部分が多かった。本当に悩みながら取り組んでいるんですけど、なかなか正解が見つからないですね。(代表に)選ばれずにこっちでやっていても、課題は変わらないので、真摯に向き合っていかないといけないなと思っています」
メンバー発表直後の5月26日のサンフレッチェ広島戦後、本人は苦渋の表情を浮かべていたのだ。
その課題とは何なのか――。1つ、思い当たるのは守備力である。
顕著な例が2月24日の今季開幕戦・FC東京戦。2-1でリードしていた後半30分、マッチアップしたジャジャシルバにアッサリと抜き去られ、そこから同点ゴールを奪われた。
視察した森保監督は「この局面で勝てる強い選手になってほしい」と注文をつけたというが、もともとDFでない毎熊にとっては確実に相手を止める1対1の守りというのは得意な部分ではない。改善の余地があるのは間違いないだろう。
「森保監督の要求というのはデュエルで確実に止めるところ? そうですね。前よりはイケてると思いますし、トライもしているので。でもその分、入れ替わってしまったり、ミスもある。その経験が今後に活きると信じてやるしかないかなと思っています」
毎熊はこうも語っており、やはり対人守備力の向上が最重要課題だと認識しているようだ。それをレベルアップさせる意味で、爆発的なウインガーが数多くいる欧州へ赴くことは必須だと考えていたに違いない。
実際、昨秋には上田綺世(フェイエノールト)や鈴木唯人(ブレンビー)を扱う代理人事務所と契約。今夏の海外挑戦を視野に入れていた。そのシナリオ通り、チャンスを得たのだから、足りない部分を克服していくしかない。そうしなければ代表復帰の道も開けてこないのだ。
毎熊の主戦場である右SBに目を向けると、菅原を筆頭に、6月シリーズに参戦した橋岡大樹(ルートン・タウン)、大ベテランの長友佑都(FC東京)がいて、さらにパリ五輪世代には大器と言われる関根大輝(柏レイソル)が控えている。攻守両面で質の高いプレーができなければ、まず競争に参戦できないし、ポジションも1つだけでは難しい。橋岡は左右のSB、左右のウイングバック(WB)、3バックの左右と幅広いタスクを与えられているし、長友にしても左右のSBをクラブでもこなしている。
香川、乾、清武、南野の系譜を継ぐ毎熊 W杯出場へ正念場
今回の6月シリーズのように、3バックと4バックを可変させていく戦い方は最終予選以降のスタンダードになりそうで、毎熊には各ポジションでハイレベルの適応力が求められる。それを磨く意味でも、日本とは異なるサッカー観や戦術の中に身を投じ、自分自身に磨きをかけた方がいいのは確か。新天地に赴けば、試合にコンスタントに出られる保証はないが、リスク承知でチャレンジするしかないのだ。
異国での挑戦と最終予選のスタートが重なるのは本人にとっても大変だろうが、そこで結果を出してこそ、代表定着が叶う。前回の2022年カタールW杯最終予選の時も似たような状況だった田中碧(デュッセルドルフ)や三笘薫(ブライトン)が代表主力の座を奪取。本大会切符獲得に原動力になっている。
ある意味、この夏から秋にかけてが、毎熊のキャリアを大きく左右するタイミングだと言っても過言ではないだろう。だからこそ、しっかりとした歩みを見せてほしいものである。
メディカルチェックが終われば、正式契約が近日中に発表されるはず。新シーズンに向けた始動時から新たなクラブに参加できるというのは大きい。最初からしっかりと適応し、キャンプでいいアピールをして、指揮官やチームメートの信頼を勝ち取ること。そこに集中してもらいたい。
セレッソからは過去にも香川真司、乾貴士(清水)、清武弘嗣、南野拓実(モナコ)らが欧州へ赴き、成果を残している。その系譜を継ぐべく、毎熊には大きな飛躍と代表定着、2026年W杯出場を勝ち取ってもらいたい。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。