とても美しく同時にグロテスク…唯一無二の王者レアル スターシステムゆえの弊害と途方もない底力【コラム】

15度目のCL制覇となったレアル・マドリード【写真:ロイター】
15度目のCL制覇となったレアル・マドリード【写真:ロイター】

史上最多15回目の欧州制覇を成し遂げたレアル、最初の黄金時代から続く編成方針

 レアル・マドリードがUEFAチャンピオンズリーグ(CL)優勝。実に15回目だ。

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 通算優勝回数の2位はACミランで7回、バイエルン・ミュンヘンとリバプールが6回、FCバルセロナが5回となっているが、レアルはここ11シーズンで6回も優勝している。欧州トップクラブの実力差がほとんどない昨今で、この戦績には改めて驚かされる。

 決勝進出は18回で勝率は83%。最後に決勝で負けたのは1981年。ファイナルまで進めばほぼ勝つ。この勝負強さもダントツである。

 欧州チャンピオンズカップとしてスタートしてから、レアルは5大会連続で優勝している。サンチャゴ・ベルナベウ会長は大会創設の推進者の1人であり、最初からこの大会の申し子のようだった。

 チームの編成方針も最初の黄金時代を踏襲してきた。

 南米のスーパースターだったアルフレード・ディ・ステファノの獲得を皮切りに、毎年のようにスター選手と契約している。ポジションの重複はお構いなし。第1回大会で決勝を戦ったスタッド・ランスからレイモン・コパを引き抜いているが、プレースタイルはディ・ステファノと被っている。さらに1958年ワールドカップのMVPだったブラジル代表のジジを獲得し、「マジック・マジャール」と呼ばれたハンガリー代表のエースだったフェレンツ・プスカシュも獲った。

 現在のフロレンティーノ・ペレス会長が就任した時も、ルイス・フィーゴ、ジネディーヌ・ジダン、ロナウド、デビット・ベッカム、マイケル・オーウェンと毎年1人ずつビッグネームのアタッカーを獲得していて、偉大なベルナベウ会長の手法にそっくりだった。

 その後はさすがにポジションバランスや年齢を考慮した補強になってきたとはいえ、その時代の最高クラスを獲得していく方針は変わらず、来季はキリアン・ムバッペが優勝チームに加わることになる。

 一方、レアルが戦術のイノベーターだったことはない。

 1970年代のアヤックス、90年代のミラン、2008-09と10-11シーズンを制したバルセロナのような戦術的な革新とは無縁である。

レアルの中盤を長年支えるルカ・モドリッチとトニ・クロース【写真:ロイター】
レアルの中盤を長年支えるルカ・モドリッチとトニ・クロース【写真:ロイター】

サッカー界のトレンドは関係なし…レアルの伝統的手法は「戦術より人が先」

 ここ11シーズンで6回優勝の原動力だったトニ・クロース、ルカ・モドリッチのゲームメークも2人の個人能力に依拠したもので、選手が代われば必然的に戦術も変わっていく。戦術よりもあくまで「人」が先にあるのが伝統的なやり方なのだ。そして戦績はレアルが正しいと教えている。

 近年の欧州サッカーは非常にシステマティックだ。選手個々の動き方、プレーの仕方は予め決められていて、マニュアルどおりにやるのが普通になってきた。しかし、レアルはそうしたトレンドとは関係がない。圧倒的な個をかき集め、そのわりには、というかそれゆえに粗も目立ちながら、結局のところはなんとかまとめて最後は勝っていく。

 半ば自作自演にも見える劇的勝利の連続は、スターシステムゆえの弊害と途方もない底力の両面を見せつける。ほかのクラブにレアルは真似できないし、たぶんしようとも思わないだろう。とても美しく同時にグロテスクでもある唯一無二の存在だ。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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