欧州日本人選手の系譜に「泥を塗れない」…24歳MFの決意 現地ファンも支持「ここで不滅の存在になって」【インタビュー】
ドイツ3部ビーレフェルトの水多海斗が実感した先人の功績「すぐ受け入れてもらえた」
ドイツ3部アルミニア・ビーレフェルトでプレーする24歳の日本人MF水多海斗は、日本人選手たちの系譜に思いを巡らせ、「自分もそういう歴史に泥を塗れないなと思っています。絶対に自分がいる間はここで結果を残したい」と力強く誓う。正直でオープンな言葉を届ける水多は、現地ファンからも「ここで不滅の存在になってくれ」「それがあったらいつだって大声で応援する」と愛される存在になっている。(取材・文=中野吉之伴/全5回の4回目)
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日本人選手とドイツ・ブンデスリーガのつながりは深い。さまざまなクラブで足跡を残し、それが後進への扉となっている。
現在3部のビーレフェルトもそうだ。日本人との歴史は長く、最初にプレーしたのが元日本代表FW尾崎加寿夫。1983年から88年まで所属し、113試合に出場18ゴールの記録を残している。昔からの熱狂的なファンの中には今でも尾崎のことを懐かしそうに語る人も少なくない。
次にプレーしたのが日本代表MF堂安律(現フライブルク)。20-21シーズンにオランダのPSVからレンタル移籍で1シーズン在籍。躍動感あふれるプレーの連続でファンを熱狂させ、11年ぶりに1部を戦うビーレフェルトの残留に大きく貢献した。
奥川雅也(現ハンブルガーSV)は21年1月にザルツブルクからの移籍で加入し、23年までプレー。2部降格となってもクラブに残り、数々のゴールとアシストでファンに愛される存在だった。
ファンはそんなクラブのために力を尽くしてくれた日本人選手の貢献を今でも忘れてはいない。現在ビーレフェルトでプレーする水多海斗が語る。
「ビーレフェルトは日本人選手に対しての理解があるんです。最近だと堂安律選手、奥川雅也選手があれだけ活躍してくれたという背景があったから、僕もすぐに受け入れてもらえました。逆に自分もそういう歴史に泥を塗れないなと思っていますし、絶対に自分がいる間はここで結果を残して、チームのために戦いたいと思っています。ファンの人たちは本当に評価してくれてますね。チームにいた日本人選手はみんな良かったってよく聞きます」
水多が街を歩いているとファンから温かい声をかけられ、クラブ宛てに情熱たっぷりのメッセージがよく届けられるという。クラブ文化が根付いているドイツでは、自分が愛するクラブのために全力を尽くしてくれる選手はあこがれの存在であると同時に、ともに戦う仲間でもあるのだ。
SNSでドイツ語のメッセージ発信、現地ファンも好意的「いつだって大声で応援する」
ファンのためにと、水多は自身の公式X(旧ツイッター)でドイツ語メッセージをよく送っている。活躍した試合後に支えてくれたサポートへの感謝の言葉もあれば、逆にふがいない戦いをした時には正直にミスを認め、次回は必ずいいプレーをすると約束する。そうした選手からのダイレクトな声は、ファンにとても好意的に受け止められている。
「実はビーレフェルトに入団した時に、広報の人に『ツイッター(現X)やってるの?』って聞かれたんです。クラブとしてSNSに力を入れて、頻繁にアップしていて、例えば僕がゴール決めたシーンとか、ピッチサイドから動画を撮ってくれているんです。ゴールシーンって、ちゃんと撮るのは結構難しいじゃないですか。でも広報スタッフは試合中ずっとそうしたシーンを狙ってくれているんです。チームが3部に降格して気持ち的にもみんな落ち込んでいる状況というのもあって、『メッセージを出してくれる選手がいるとファンも嬉しいから』と言われて。僕としても、そうやってドイツ語でメッセージをSNSでアップすることでファンが少しでも盛り上がってくれたら嬉しいですし、楽しみながらやっています」
丁寧で気持ちがこもり、熱さも感じる水多からのメッセージを1つ紹介しよう。
「いつもサポートしてくれるファンに感謝の思いを伝えたいです。みなさんが見てのとおり、今チームはとても難しい状況にいます。でも、僕はそうした状況が嫌いではありません。ここを乗り越えることができたら、もっともっと良くなれるから。どんな状況でも120%のパワーで戦います。昨日のゲームのような恥ずかしい試合はもう絶対にしない。ベストを尽くします。次の試合でも応援よろしくお願いします!」
なかなか思うような結果が出ない試合後は選手もファンも失望に沈む。そうした時だからこそ、選手からの正直でオープンな言葉はファンに響く。
ビーレフェルトのファンからは「最高だな。ここで不滅の存在になってくれ」「君の正直なメッセージに愛情を!」「サポートはもちろんするさ。俺たちは意志と勇気を見たいんだ。それがあったらいつだって大声で応援する」といった声が集まっていた。現地語でのコミュニケーションは大事なことなのだ。
※第5回へ続く
[プロフィール]
水多海斗(みずた・かいと)/2000年4月8日生まれ、東京都出身。中野島FC―FC東京U-15むさし―前橋育英高―SVシュトラーレン(以降ドイツ)―マインツII―アルミニア・ビーレフェルト。高校卒業後の2019年にドイツへ渡り、当時5部のシュトラーレンに加入。21年にマインツへ移籍し、1部でベンチ入りしたものの出場機会はなかった一方、22-23シーズンにはセカンドチーム(4部)でリーグ戦31試合出場10得点10アシスト。23年夏、かつて尾崎加寿夫、堂安律、奥川雅也らが在籍したビーレフェルト(3部)へ移籍し、今季リーグ戦25試合に出場し、5ゴール5アシスト(第35節終了時)の活躍を見せている。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。