日本サッカーは確固たるスタイル不在 五輪世代の“弱点”露呈…A代表経験MFが「唯一の収穫」【コラム】

マリ戦に途中出場した藤田譲瑠チマ【写真:徳原隆元】
マリ戦に途中出場した藤田譲瑠チマ【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】ホームで1-3敗戦も…際立ったMF藤田譲瑠チマの存在感

 粗削りだが勝負どころを察知し、そのチャンスを確実に突いてゴールをモノにする。3月22日、U-23日本代表と戦ったU-23マリ代表の印象である。

 さまざまな情報を手にすることができ、世界の距離が縮まった現代サッカーでは、アフリカのチームをフィジカルの能力を前面に出した豪快なプレーだけが特徴と考えるのは間違えである。もちろん、このフィジカルで畳み掛けてくるプレーだけでも相手チームにとっては十分に脅威なのだが、しっかりと戦術的な動きも兼ね備えているのが現代のアフリカのチームだ。

 U-23マリは1対1の勝負でU-23日本のチャージを受けてバランスを崩しても、そこで持ち堪えてプレーを続けられ、前線へとボールをつなぐことを成功させてしまう。そのチャージにも屈しない荒々しさに加え、戦術的意図を持ったプレーも繰り出してくるのだから、まさにこのスタイルが日本だ、と胸を張れる圧倒的な特徴を持たないU-23日本にとっては、簡単に対抗できる相手ではなかった。

 こうなるとU-23日本には守備面で言えば、対抗する術が少なかったと思う。ゴール裏から見ていて、U-23マリの攻撃を防ぐ手立ては、局面で数的優位を作り出し、遮二無二にマークするしかないと感じた。

 だが、簡単にそうは言ってもフィジカルで勝る相手に、数的優位の状況を作り出すのは難しい。3失点が示しているように、守備面では劣勢となる展開が多かった。

 対して攻撃は、後方でボールをつなぎから両サイドの選手に送り、そこからの崩しや逆サイドを狙った一気のロングパスで相手陣地深くへの侵入を試みるなど多彩さがあった。しかし、そうした攻撃もゴール前での決定力を欠いた。いや、決定力を欠いたと言うより、ペナルティーエリア近くまではボールを運べたが、中央をしっかりと守られ、良い形でシュートを打つことさえできなかったと表現した方が正しいかもしれない。特に後半はU-23マリの牙城を崩せる雰囲気はなかった。

 選手に目を向ければ存在感を放ったのは藤田譲瑠チマだ。後半31分からピッチに立った藤田は力強いドリブルでU-23マリの守備網に果敢に挑んでいく。そのドリブルは重心が低く、推進力があり相手のフィジカルにも負けない安定感があった。

 藤田のようなミスが少なく、攻守に渡ってチームに貢献できる選手は、指揮官にとっては非常に重宝する人材だ。この試合はテストいう意味合いが強く途中出場となったが、その安定感あるプレーから察するに彼のレギュラーは確定していると思う。

 ただ、この試合でピッチに立ったほかの選手は、フィジカルの強い敵を相手にした場合、対等に戦えるのかと不安を感じた。攻撃の戦術的意図は見えた。しかし、U- 23日本の選手は時に予想を超えたパワーを発揮する相手に、あまりにも杓子定規に戦い過ぎた。

 現代サッカーでは戦術は絶対に必要で無視することはできない。しかし、ある局面では戦術を超えた個人能力によるプレーが必要になる。日本の選手にはそうしたプレーを実行するアイデアと、なによりチャレンジする大胆さが欠けていたように感じた。

 U-23マリ戦での収穫は少なかった。人一倍悔しさを滲ませた藤田の表情が、この試合の唯一の収穫だったのかもしれない。

 厳しい戦いが予想されるカタール開催の予選では危機感を持ち、細心の注意を払ってプレーする一方で大胆に戦う。彼らの勇気が試されるところだ。

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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