豹変した北朝鮮…なぜ日本代表は術中にハマったのか? 苦戦した決定的な原因と温故知新の教訓【コラム】

日本は北朝鮮に1-0で勝利【写真:Getty Images】
日本は北朝鮮に1-0で勝利【写真:Getty Images】

日本の攻撃テンポが停滞、足りなかったワンタッチパスの精度と回数

 ワールドカップ(W杯)予選の北朝鮮代表とのホームゲームは1-0の辛勝だった。開始2分で田中碧が先制した時には楽勝かと思われた。日本はFIFAランキング18位、北朝鮮は114位なのだ。ところが、圧倒的にボールを保持した日本は追加点を奪えず前半終了。後半に入ると北朝鮮が反撃を開始、日本は受けに回ったがなんとか凌いだ。

 北朝鮮の豹変ぶりは定番だ。前半はなるべく失点を避けて体力も温存、大人しくしている。そして後半にいきなりテンポを上げて攻勢をかける。日本はまんまと相手の術中にはまったと言っていいだろう。

 そうなってしまったのは、日本の攻撃のテンポがなかなか上がらなかったからだ。前半のうちに追加点を奪うか、北朝鮮にもっと足を使わせていれば、後半にあれほど苦戦することはなかっただろう。

 ワンタッチパスが少なかった。相手の面前でゆっくりパスをつないでいることが多く、攻撃のテンポが上がらない。何度かは試みているが精度を欠いてボールを失っていて、さらにワンタッチを織り交ぜて前進しようとする回数そのものも足りなかった。

 26年前、今はない横浜フリューゲルスにカルレス・レシャック監督がやって来た。「ドリームチーム」と呼ばれたFCバルセロナでヨハン・クライフ監督の右腕だったコーチだ。

 レシャック監督は最初の練習で「パスを回せ」と言った。すると、ボールではなく選手がぐるぐる回り始めてしまったという。レシャック監督は選手たちを止め、1人1人ポジションにつけた。動くのはボールであって人ではない。バルサのスタイルである。

 またある時、レシャック監督は「すべてワンタッチでつないでみよう」と言った。DFからFWまで、すべてダイレクトパスでつないで行けと。「それは無理だ」と反論されたが、「できるはずだ」とやり方を説明したそうだ。

 例えば、MF4人が横一列に並んでいるとする。横パス1本つないだ時点で、相手が4人マークについたら、その時点でボールを前進させるのは困難になる。レシャックは「ラインを多く作れ」と説いた。MFが横一列のラインを1つ作るのではなく、FWとMFの間、MFとDFの間にも人が移動して、より多くのラインを作る。ラインをとばしてパスを出し、それをワンタッチでとばされたラインにいる選手に戻す。2つ進んで1つ下がるような方法になるが、これならばワンタッチだけでもボールを前進させられるわけだ。

 北朝鮮戦の日本代表に足りなかったのがこれだった。

 レシャック監督が「ラインを多く作れ」と説いたのは26年も前の話。現在の日本代表選手はもちろんそういう知識は持っている。北朝鮮戦でもワンタッチを交えてテンポを上げ、相手を振り回して崩していこうという意図は見えていた。しかし、技術的な問題なのか、ポジショニングの距離感か、はたまた別の何か、あるいはそれら全部なのか、やろうとはしていてもスムーズではなく回数も少なかった。結局のところ止めてパス、こねてパス、守備ブロックの面前でのパスが多くなり、攻撃がテンポアップしなかった。

 温故知新というけれども、欧州リーグでプレーするハイレベルの選手たちが集まっても、ああなることはあるわけで、当たり前だと思っていても意外とできなかったりするのがサッカーの難しさであり奥深さでもある。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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