Jリーグにも好材料…復活目覚ましい2クラブが“尖った魅力”発信 J1で生き抜く独自の道を模索【コラム】

復活目覚ましい2クラブが“尖った魅力”を発信【写真:徳原隆元】
復活目覚ましい2クラブが“尖った魅力”を発信【写真:徳原隆元】

明確な指針が浸透している新潟、選手が抜けても失われないクラブの魅力

 2年前とは光景が一変していた。

 J2時代の一昨年、東京ヴェルディが味の素スタジアムにアルビレックス新潟を迎えた時はオレンジ一色のイメージが濃かった。だがJ1での同カードでは互角以上のグリーンがスタンドを占めていた。

 今年の観客動員は1万7055人。2年前のJ2時代から4000人以上も多くのファンがスタンドを埋めた。新潟の松橋力蔵監督は、アウェーゲームに足を運んでくれたサポーターを2年前には7000人、今回は6000人と語り感謝の意を表明していたので、東京Vのファンが急増したことになる。

 2年前に見た新潟の変貌ぶりは鮮烈だった。すでに独走での昇格を決めていたわけだが、アグレッシブなプレッシングと流麗なポゼッションを両立させて完全にゲームを支配した。長期低迷が続く東京VもJ開幕前まで遡れば圧倒的なポゼッションが旗印で、その伝統は育成へと継承されてきたのでボール支配で明らかに圧倒されることは少なかった。

 近年で思い当たるとすれば、大木武監督が率いる熊本くらいだった。だが選手を輝かせればチームの弱体化を招きかねないのが地方クラブの宿命だ。主力をことごとく引き抜かれた熊本は、昨年のJ2で14位に沈んだ。

 J1に昇格した新潟も被害が小さかったわけではない。ピッチ中央でリモコンを操るような存在だった伊藤涼太郎が早々とシント=トロイデンに去り、続いてエース格に繰り上がった三戸舜介もスパルタ・ロッテルダムへ旅立つ。生え抜きの渡邊泰基、さらにはボランチで成長中の高宇洋も、それぞれ横浜F・マリノス、FC東京に移籍した。

 しかしそれでも松橋監督の明確な指針が浸透したクラブは魅力を失っていない。けれん味のない果敢なプレッシングで相手から自由を奪い、ここまで開幕から4戦すべての試合で600本以上のパスをつなぎ、その大半は安易な浮き球を選択せずに小気味良くボールを滑らせている。

 似た志の川崎フロンターレがジェジエウの故障で苦戦を強いられているのとは対照的に、全体が高い位置に押し上げるスタイルを安定させているのは身体能力に長けたトーマス・デンの水際立った対応だ。また抜けた牽引車の穴は個々が流動性という武器を駆使しながら少しずつ埋めて、J1で生き抜く独自の道を示している。

東京Vの若い伸びしろが見せる想像以上の対応力「編成費用ほどの格差はない」

 一方東京Vの方も、育成に長けた特徴を活かしながら新しい生き残る道を模索している。

 昨年清水とのプレーオフを制し、16年ぶりにJ1への復帰を遂げた試合後に城福浩監督は語っていた。

「シーズンが終われば多くの主力がいなくなる。それが当たり前のチームだった。冬の移籍市場では連戦連敗。でも選手たちには、編成費用ほどの格差はない」

 新潟戦に出場したスタメンのフィールドプレイヤーは右サイドバックの山越康平以外は全員が25歳以下。Jクラブの大半が経験値を買い取るのが強化と認識する流れのなかで、逆に若い伸びしろに復活の可能性を託しているようにも映る。

 実際内容的には圧倒したとも言える開幕の横浜FM戦から、ほとんどJ1経験を持たない選手たちは想像以上の対応力を見せている。さすがに「個人的にはポゼッションでは1番だと思っている」(城福監督)新潟に難しい状況に追い込まれたが、それでも「終盤はリスクを背負って保持したことで」(同監督)土壇場で2-2に追い付き勝ち点を拾い上げた。

 指揮官は「半歩進めた」と振り返る試合を終えて、今後の展望に触れた。

「ボールを支配されることを想定して最初は推進力のあるメンバーを送り出したが、後半途中からのボールを握るバージョンにも少し手応えを得ることができた。これからは推進力と支配力を両立させた最高到達点を探っていきたい」

 ヴィッセル神戸優勝の趨勢からすれば、新潟も東京Vも勝利の方程式からは外れた夢を追い続けているのかもしれない。しかしこうして尖った魅力を発信するチームが増えるのは、リーグにとっても好ましい材料だと思う。

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(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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