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アジア杯で分析班4人増 山本昌邦NDに聞く日本代表の舞台裏「北朝鮮戦は大変な試合になる」【独占インタビュー】
日本代表はアジアカップで分析班を4人追加
カタールで開催されたアジアカップは準々決勝敗退という結果に終わってしまったが、一方で2026年の北中米ワールドカップ(W杯)に向けた準備は進んだ。今回から新たに導入した体制は、試行錯誤を繰り返したものの、本大会に向けて解決すべき問題が抽出された。
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それはかつてないバックアップ体制の構築だった。2022年のカタールW杯で、テクニカル(分析班)と呼ばれる対戦相手および自チームを分析するためのスタッフには4人が従事した。W杯後、人数を絞り込んでできるのではないかと一旦2人に減らしたが、やはり負担が大きすぎるということで大会では4人が標準となった。
そして今回のアジアカップでは、さらに4人が追加された。そして計らずしもW杯に向けた絶好のシミュレーションができたのだ。
分析班に最も負担がかかるのはグループリーグの間となる。グループ内の対戦相手を分析するだけではない。グループリーグを突破したあとの対戦相手も分析しておかなければいけないのだ。
アジアカップでは第2戦のイラクに1-2と負けたことで、一気にベスト16の対戦相手として想定されるチームが増えた。不幸中の幸いとして、その負荷に分析班が耐えられるのか、というシミュレーションができたのだ。
果たして、今回のバックアップ体制はどのように機能したのか、目前に迫っている朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)戦に生かすことができるのか、日本が負けた原因はどう浮かび上がっているのか、そしてW杯本大会に向けて解決すべき課題は何があったのか。日本代表を担当する山本昌邦ナショナルチームディレクターに、今の日本代表の裏側を訊いた。(取材・文=森雅史/全2回の1回目)
いかに「エモーション」を味方につけるか
——分析班をこれまでの4人から一気に7人に増やして、それぞれどういう役割で動いたのでしょうか。
「まず4人はチームに帯同して分析を行いました。ほかの3人のうち2人はチームとともにカタール入りしながらも、日本の対戦相手になりそうなチームの試合に行き、分析しました。もう1人は大会後半までは日本にいて、今回データ集めをやってくれた東京大学と筑波大学の約30人の学生をとりまとめる役割を担っていました。集めたデータはチームに分かりやすくなるようまとめるのですが、学生が優秀で基礎データを探す時間が短縮されました」
——分析班はどの程度まで対戦相手を分析するのですか。
「最終的にはメンバー表が出て、ウォーミングアップをしている相手選手を見て、『この選手がいるのなら、このシステムかあのシステムで戦ってくる』ということまで分かっています。もちろんその前に相手のプレーの特徴や癖などをしっかり掴んで、短くまとめて選手に伝えています。
相手選手はこういうプレーが得意だ、こうなったら彼の強みが出る、ウィークポイントはこういうところがあるなどの資料を、マッチアップしそうな近くの選手用に映像を作って渡します。
ですが、あまり早くに渡そうとしても、こちらの先発も分からないですよね。選手はおおよそメンバーに入るかどうか分かってきたぐらいから集中力を高めて、相手の特徴をしっかりと頭に入れるので、そのタイミングで見られるように、コンパクトにまとめた映像を用意しないといけないので、かなりの作業量でした」
——次の北朝鮮戦(3月21日ホーム、26日アウェー開催)は相手の情報が少ない中での戦いになります。
「はい、たしかに情報が少ない、しかも極端に少ない国ですが、それでもしっかり分析は行っています。2023年に開催された杭州アジア競技大会で対戦していて、その時のメンバーが中心でしょう。私も目の前で見ましたし、五輪チームには専属の分析担当が2人いて、その情報は共有されています。とはいえ、サッカーが国技という国ですし、一方で日本の情報はすべて知られているでしょう。大変な試合になるのは間違いないと思います」
——タフな戦いになるでしょうね。
「アジアカップで戦ったイラクとイランは、アジアの中でフィジカルが傑出して高かったですから、そういう相手とこの段階で戦えたのは良かったですね。たぶんデュエルの多い試合になると思いますが、世界で勝つためにはデュエルの勝敗が大切になってきますから、その意味でも試されると思います」
——平壌で開催されることになりましたから、まだ日本が勝ったことがない、1点も取ったことがない場所での戦いになります。
「これはなかなか数字に表すのは難しいのですが、アジアカップを見ていてもやはりサッカーでは『エモーション』という要素も大切だと感じました。エモーションを味方につけるような、日本サッカー界全体としてどうやって雰囲気を作っていくかということも考えなければいけないと思いましたね。
平壌で開催されれば5万人の国民が総立ちで応援するわけじゃないですか。その時のエモーションのエネルギーは、選手が普通じゃ考えられないものを出す要因になりますし、倒れるまで走り切る、戦い抜くということに結び付いています。サッカーの要素の奥深さがそこにあると思いますね」
(第2回へ続く)
[プロフィール]
山本昌邦(やまもと・まさくに)/1958年4月4日生まれ、静岡県出身。JSLのヤマハ発動機(ジュビロ磐田の前身)でDFとして奮闘し、87年に29歳の若さで現役引退。指導者の道に進むと。U-20とU-23日本代表コーチ、U-20日本代表監督、日本代表コーチ、U-23日本代表監督などを歴任。2023年2月から日本サッカー協会(JFA)のナショナルチームダイレクターを務める。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。