なでしこJ、五輪“18人枠”は熾烈サバイバル 北朝鮮後「パリへ行けない」と危機感の声も【コラム】
北朝鮮とのアジア最終予選を制し、パリ五輪行きが決定
”なでしこジャパン”ことサッカー日本女子代表は、パリ五輪アジア最終予選で朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)と対戦。ホーム&アウェーを合計スコア2-1で制して、アジアで2枠しかないパリ五輪の切符を掴み取った。
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サウジアラビアで行われた第1戦は会場が数日前に決まるという異例の状況。しかも日本が決勝で北朝鮮を破り、金メダルを獲得したアジア競技大会から全く異なるシステムだった。ロングボールを多用してくる相手に後手を踏む形で、どうにか0-0で引き分けて、中3日の国立決戦に持ち込んだ。
そこで池田太監督はキャプテンでもあるアンカーの熊谷紗希を最終ラインに下げて、昨年の女子ワールドカップ(W杯)後にトライしていた4-3-3から(5-4-1)3-4-2-1に変更した。
熊谷キャプテンは「第1戦でなかなか相手のロングボールに対して、ディフェンスラインがちょっと全員で落ちちゃう傾向にあって、なかなかボールにプレッシャーをかけられなかったなって。それが3枚になることで、誰が出るかはっきりするし、本当に今日は多く前に出られて、前で勝負できたところがあった」と振り返る。
前半26分の先制ゴールは相手陣内でのフリーキック(FK)を起点として、最後はセンターバックの高橋はなによってもたらされたが、その前後も日本が優位に試合を進めており、攻撃では前線が3トップというよりも1トップ2シャドーになることで、スタメンに抜擢されたFW上野真実も左のシャドーとして、右のMF藤野あおばとともに1トップのFW田中美南をサポートしてチャンスにつなげた。
一瞬のピンチをGK山下杏也加のギリギリのセーブに救われたシーンもあったが、引き続きゲームの主導権を握りながら、なかなか追加点が生まれないなかで、北朝鮮が後半21分に3枚替えをして勝負をかけてきた。高橋は「(熊谷)サキさん中心に声かけ合ってましたけど、もう1回ここからだぞと引き締め直して、みんなでプレーしました」と振り返る。
相手がウイングバックを高い位置に上げて、リスクをかけてくる分、ワイドのスペースが空く。待望の追加点はMF長野風花による縦パスに、右サイドのDF清水梨紗が飛び出して、折り返しのクロスに藤野がうまく合わせた形だった。
藤野は「軌道的にはたぶんキコさん(清家貴子)を狙ったんだろうなってのは分かってたんですけど、自分が決めたかったので。GKの移動してるところもしっかり見えてたので、あとはは当てるだけでした」と振り返る。中盤で起点のプレーからゴール前に入り込む藤野に対して、上野に代わり左のシャドーに入っていた清家もタイミングよく外に膨らむことで、藤野の飛び込むスペースを作った。
最終予選メンバー外でも、パリ五輪の有力候補になり得る選手は多数
殊勲のゴールを藤野に譲る形になった清家だが、藤野が飛び込んで来ることは察知したうえで「自分も触れましたけど、結果ゴールで。そのゴールで勝てたので、良かったかなって思います」とにやり。清家は三菱重工浦和レッズレディースで、最初の得点を決めた高橋の同僚でもあるが「はな、持ってますね」と笑顔で称えていた。
2-0になってから、さらにリスクをかけてくる北朝鮮に対して、DF南萌華のミスパスをカットされたところから途中出場のFWキム・ヒヨンに決められてしまうが、そこからなんとか耐え抜いて、2-1で勝利を手にした。なでしこジャパンの選手たちの歓喜というより、安堵の表情が目立っていたことに、五輪予選の難しさというものを痛感させられた。
「やっぱりリオ予選敗退したあと、すごく長くやってきたチームが一瞬で解散になって、新しいチームが始まってなかなか勝てなくて、すごい苦しい時期を知っている身として、やっぱりもう一度繰り返しちゃいけないなっていう思いはすごく強かった。女子サッカーの未来のためにも絶対勝たなきゃいけないなっていうところは感じていたので。もちろん、それはもうみんなに伝えましたし、そういった形で試合には臨みましたけど、だからこそ本当に勝って良かったです」
熊谷キャプテンもそう語るように、リオ五輪の予選で敗退して、東京五輪が予選免除だったところからの8年越しで世界への扉を開いたという点で今回のメンバーを讃えたい。その一方で、最終予選は22人がエントリーしていたが、本大会の正規メンバーは18人となる。しかも、本来のエース的な存在であるMF宮澤ひなたや女子W杯にも出場したMF猶本光を怪我で欠いており、左サイドの主力だったMF遠藤純の欠場もあった。当然、彼女たちが復帰すれば有力候補になってくる。
最初の得点者で、守備でも奮闘した高橋も「個人的にまだまだ足りない部分が多いので。技術のところもそうですし、サッカーの理解度、フィジカルの面ももっともっと上げて行かないと、私もきっとパリに行けない。もう一度チームに戻ってやり直したい」と気持ちを引き締めた。
一方で2試合目は出番のなかった18歳のMF谷川萌々子が「選手として悔しいですけど、パリでいいパフォーマンスをするために、自チームに帰っても高みを目指して頑張っていきたい」と語れば、2試合とも出番がなかった20歳のDF石川璃音も「出られなかったことはしっかり受け止めて、取り組むべきかなって思います」と前を向く。
今回のメンバー外でも、どのポジションにもパリ五輪の有力候補になり得る選手はおり、海外組、主にWEリーグでプレーする国内組ともに残された4か月ほどの期間で、どういったアピールが繰り広げられていくのか。最終的に決断するのは池田監督だが、金メダルを目指すチームに入るためのハイレベルなサバイバルになっていきそうだ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。