アジア杯帰りの堂安律がもたらす安定感 ミスでもブーイングではなく励ましの拍手が起こる訳【現地発コラム】
勝てない時期が続いたフライブルク、復帰した堂安が攻守両面で圧巻プレー
アジアカップから戻った堂安律が、フライブルクにもたらしている影響は小さくない。
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2024年に入って主力選手の負傷離脱などもあり、なかなか勝てない時期が続いていた。第17節ウニオン・ベルリン戦は0-0の引き分け、18節ホッフェンハイム戦では3-2と勝利を飾ったが、その後リーグではブレーメン(1-3)、シュツットガルト(1-3)、ボルシア・ドルトムント(0-3)に3連敗を喫した。
攻守にわたる規律だったハードワークがベースとなるフライブルクの戦い方。インテンシティーを高く維持したまま攻守にクオリティーの高いプレーを発揮できる選手が必要不可欠なのだが、それができる選手はそうはいない。若手選手も懸命にプレーしているが、どこかでプレー判断が乱れ、集中力が切れてしまう。
第22節フランクフルト戦(3-3)からスタメン復帰を果たした堂安は、持ち味を随所に発揮し、チームにダイナミックさを注入した。ポジションは右ウイングバック。走行距離は多く、守備でのタスクも多岐にわたる。それでも攻撃で起点となり、違いを生み出すプレーを見せる。
常に鋭い視線で次のボールを狙い続ける。セカンドボールへの反応が良く、フィフティーフィフティーのボールを上手くマイボールへしていく。前半30分、堂安がリーグでは昨年10月ボーフム戦以来となるゴールをマークした。
左サイドからのドリブルで相手を外して、味方へパス。ハンガリー代表FWロランド・サライのシュートはフランクフルトのドイツ代表GKケビン・トラップが防いだが、疾風怒濤の堂安がこぼれ球を右足で見事に流し込んだ。
「右サイドで崩して中に入っていくところは、ポジションがウイングバックで少し下がり目であっても意識はしてるので良かったかなと思います」
その後もボールをキープし、ドリブルで運び、パスとフリーランでゴールに迫る。状況に応じてボールを落ち着けて、自分たちの時間も作り出す。
「仕掛けるだけじゃなく、状況に応じてやり直してもう1回やるっていうのは自分の良さでもあるんで。後半はあんまり仕掛けられなかったですけど、試合全体的にボールを失う数も少なかったと思いますし、良くなったかなと思います」
守備でも何度もボールをカットし、後半40分には元ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェとのルーズボールの競り合いで、タイミング抜群のスライディングタックルでボールを見事に射抜いた。
「やるべきプレー」を体現する堂安への確かな評価
コントロールミスでボールがサイドを割ったシーンもあったが、ファンからはブーイングではなく、励ましの拍手。瞬間で切り取ったら凡ミスだろう。だが試合を通じて好パフォーマンスを見せる堂安への確かな評価がそこには感じられた。
「3度リードを許しながら、3度追い付いた。途中出場した選手はチームにエネルギーをもたらしてくれた。今季はこうした試合でないこともあるが、そうでなければならない。選手には最大限の要求をしている。期待しているんだ。今日はさまざまなネガティブなことがあったなかで、素晴らしいパフォーマンスだったと思うよ。4点目のチャンスだってあったんだ」
監督のクリスティアン・シュトライヒは、そう言って選手を労った。この試合で掴んだ手応えがあったからこそ、4日後に行われたランスとのUEFAヨーロッパリーグ(EL)プレーオフで0-2という状況から試合をひっくり返し、3-2で勝ち残りを決めることができたのだろう。
続く第23節アウクスブルク戦(1-2)ではいくつかのポジションをローテーションして臨んだが、堂安は当たり前のようにスタメンに名を連ね、当たり前のようにフル出場している。堂安が「きついから代えてくれ。休ませてくれ」と言わない限り、シュトライヒ監督はあえてピッチから下げようとはしない。そのくらい絶対的な信頼を寄せられているのだろう。
「カウンターですごいやられている。やっぱり攻撃している時のポジショニングだったり、スプリントで全選手が戻っていくっていうのを意識してるなかで、少しリスク管理が甘いかなと思います」
フランクフルト戦後にそう話していた堂安。アウクスブルク戦でも猛ダッシュで相手の決定機を阻止したシーンもあった。やるべきプレーを体現する堂安とともに、フライブルクはELでベスト8進出(ベスト16でウェストハムと対戦)を、そしてリーグでも3年連続となるヨーロッパカップ戦出場を狙う。
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。