11連覇王者バイエルンの転落 狂った歯車と不協和音が招く“栄光終焉”の危機【現地発】

9年ぶりの公式戦3連敗など不調に見舞われているバイエルン【写真:ロイター】
9年ぶりの公式戦3連敗など不調に見舞われているバイエルン【写真:ロイター】

9年ぶりの公式戦3連敗を喫したバイエルン、「終わることのないホラー映画」の声

 いったいバイエルン・ミュンヘンはどうしてしまったのか?

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 レバークーゼンとの頂上決戦で0-3と一蹴されると、UEFAチャンピオンズリーグ(CL)ラツィオとのアウェー戦で0-1と敗戦。さらにリーグで下位に沈むボーフムにも2-3で敗れた。ボーフム戦では不用意なボールロストからあまりに簡単なカウンターでピンチを招くと、日本代表FW浅野拓磨の独走を許して失点を喫した。歯車が1つどころか、いろんなところで噛み合っていないことを印象付けるシーンと言える。

 2015年以来、9年ぶりの公式戦3連敗を喫したバイエルン。試合後にドイツ代表MFレオン・ゴレツカが「終わることのないホラー映画を見ているようだ」と心境を吐露すると、同僚のヨシュア・キミッヒがアシスタントコーチのツォルト・レーフと言い争いする姿がドイツメディアで報じられる。火種がどんどん出てくる。

 王者らしからぬ姿といえば、レバークーゼンとの試合もいただけない。負けたことだけではなく、そのパフォーマンスはとてもリーグ11連覇のそれではなかったからだ。

 昨季は優勝したとはいえ、最終節にボルシア・ドルトムントがマインツ相手に取りこぼしをしたおかげで巡ってきた幸運もあった。それだけに今季は実力で圧倒性を示そうと力を入れていたはずだ。

 9500万ユーロ(約154億円)もの移籍金を投じてイングランド代表FWハリー・ケイン(トットナム)を獲得し、課題とされた守備陣には韓国代表DFキム・ミンジェに5000万ユーロ(約81億円)を投じて迎え入れると、移籍金なしでオーストリア代表MFコンラート・ライマー、ポルトガル代表MFラファエル・ゲレイロをそれぞれ獲得した。

 冬の移籍市場でも動き、ガラタサライに3000万ユーロ(約48億円)を支払い右サイドバックのサシャ・ボイエを補強し、夏に補強予定だったグラナダのブライアン・サラゴサをレンタルでの早期獲得にも成功。積極的な強化をしながらも今季の出来は今ひとつピリッとしない。

ベテランFWミュラーが吐露「決まりごとばかりでプレーしたら上手くいくはずがない」

 バイエルンがバイエルンたるゆえんは、あまり調子が良くなかったり、なんらかの問題を抱えている時でも、トップゲームとなったら100%の集中力で、爆発的なパワーを発揮できるからだった。どれだけ好調のライバルチームが相手でも、それをも飲み込む勢いで相手を凌駕してきた。

 そんなバイエルンが、アウェーとはいえ今季のリーグにおける行方を左右するレバークーゼン戦で相手に完全に飲み込まれてしまったのだから、その衝撃は小さくはない。

「プレーしているレベルには満足していない。結果は残酷的なものがあるが、自分たちに問題はある。軽やかさ、信頼さ、深い守備をしている相手に対してアイデアが欠けている」

 バイエルンのトーマス・トゥヘル監督は試合後の記者会見にて、自信に満ちた顔で座るシャビ・アロンソ監督の隣でそう話していた。それも事実だ。だがトゥヘルのアプローチもハマっていない。

 相手を分析し、良さを消し、勝機を高めるために指揮官は熟考する。何重にも思考を巡らし、トレーニングで落とし込み、一丸となって全力で取り組む。戦術的な変化をもたらすのは当然だし、それに対応できなければプロ選手としてやっていけないのも確かだ。

 ただ、チームとしての共通認識がボヤッとしている状況で『理論上の正しさ』を提示して、そのとおりにできるかというと、それはまた別問題。ベテランFWトーマス・ミュラーが、レバークーゼン後のテレビインタビューで思いの丈を爆発させていたのが何より印象的だ。

「練習ではすごくいいプレーを見せているのに、プレッシャーの懸かる試合だと途端になくなる。プレッシャーを感じるのはいい。でもそれが負担になってしまってはダメなんだ。サッカーの試合でAからB、BからC、そしたらCからDみたいな決まりごとばかりでプレーしていたら上手くいくはずがない。レバークーゼンの選手はボールを持った時に勇敢で、時にずる賢く、仕掛けようとしていた」

考えさせられる指揮官の言葉「どの試合も1回だけ。監督というのはそういう仕事だ」

 トゥヘル監督は、そんなミュラーのコメントを受けて、記者会見で「理解はできる。でもそれは今日だけではなく、今チームが抱えているテーマだ。『プレッシャーがない時はいい』だけではなく、プレッシャーがある時のプレークオリティーを出すことが大事だ」と答えていたが、プレッシャーがかかるなかで『らしさ』を発揮できないことが続いてたのなら、ほかアプローチを取るべきだったと思わざるをえない。

「監督は戦術について常に考えて決断する。責任は常に自分にある。そしてもしこの試合でほかの戦術だったらどうなったのかという答え合わせをすることはできない。どの試合も1回だけ。監督というのはそういう仕事だ」

 トゥヘル監督はそうも語っていた。考えさせられる。決断力について学ぶことも、経験を積み重ねることはできても、シンプルに本質をかぎ分ける天性の決断力には勝てないのかもしれない。

 2015年、ペップ・グアルディオラ時代にぶっちぎりの戦績で優勝したあとに3連敗ということはある。だがトゥヘルの前任者となるニコ・コバチも、ユリアン・ナーゲルスマンも、公式戦3連敗を喫したことはないなかで解任された。クラブは今季限りでトゥヘルとの契約を打ち切ると発表したが、これですべてが解決するのだろうか。バイエルンはどこへ向かっているのだろう。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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