J1最新「戦力値ランキング」 鹿島、名古屋、FC東京、G大阪…“第2勢力”補強ランクで明暗【コラム】

J1リーグ全20クラブの戦力値を査定【写真:徳原隆元】
J1リーグ全20クラブの戦力値を査定【写真:徳原隆元】

「攻撃力」「守備力」「組織力」の3項目から全20クラブの戦力値を査定

 J1リーグ全20クラブの戦力値を査定すべく「攻撃力」「守備力」「組織力」の3項目(各100点満点)から、戦力値ランクとして紹介。後編では補強ランクA&Bのトップ6よりも下に評価したC~Eランクの注目クラブをピックアップしていく。

 まずCランクと言っても限りなくBに近い位置付けにいるのが、鹿島アントラーズと名古屋グランパスだ。AとBランクに鹿島と名古屋を加えた8クラブが、シーズン終盤まで優勝争いに絡めるポテンシャルがあると見ている。

 昨シーズン5位の鹿島は主力、準主力から何人か抜けた割に補強が少なく、オフの時点では2桁順位のリスクもかなりあると筆者は見ていた。しかし、冷静に見ればもともと、能力の高い選手たちが揃っているのも確か。ランコ・ポポヴィッチ新監督が発する「ブラボー」そのままに、フレッシュな雰囲気に包まれているのは非常にポジティブだ。

 またFWアレクサンダル・チャヴリッチ(←スロヴァン・ブラチスラヴァ)や大卒ルーキーの右サイドバック濃野公人(←関西学院大)など、新戦力も少数ながら着実にチーム力をアップさせている。「攻撃力」は現状評価で70にしたが、戦術とタレントの歯車が見事に噛み合えば80~85に引き上がる爆発力は秘めている。

 縦に速いスタイルで、守備も運動量をベースにしているだけに、90分間の体力配分や夏場の戦い、相手にハメられてミスが増えた時に、チームが崩れないかという未知数な要素はある。またセンターバックは主力こそ植田直通、関川郁万とJリーグ屈指だが、スペシャリストが19歳の津久井佳祐を合わせて3人しかいない。

「守備力」を80にしているのは植田や関川にアクシデントがない前提だ。ポリバレントな選手もユースから2種登録の松本遥翔ぐらい。日本代表のMF佐野海舟もスクランブルならやれそうだが、3月までの登録期間か、もしくは夏か、遅かれ早かれ補強は必要だ。それまでは綱渡りの運用が続くだろう。

 名古屋グランパスは戦力のポテンシャルを考えると、本来は上位に評価するべきだが、やはり中谷進之介(→ガンバ大阪)、藤井陽也(→コルトレイク)、丸山祐市(→川崎フロンターレ)というセンターバックの主力3人が抜け、サイドでディフェンシブな役割も担っていた森下龍矢(→レギア・ワルシャワ)が欧州移籍でいなくなったことで、ディフェンスラインをゼロから再構築しないといけないのは厳しい。J1の戦いを想定すると、割り引いて考えるべきだ。長谷川健太監督が3年目となるシーズンで「組織力」を65にしたのも、その側面が大きい。

 もちろん韓国の浦項スティーラーズから加入したハ・チャンレなど、新加入のDFも能力は高く、ヴァンフォーレ甲府から来た23歳のDF井上詩音は今後の活躍次第で、日本代表の候補に浮上してもおかしくない期待のタレントだ。そうした評価も加味して「守備力」は75としている。ただ、やはり守備陣が不安要素になると、どれだけ中盤から前が豪華でも、不測の事態では足もとから崩れてしまうのが、プロサッカーの世界だ。その意味で、守護神ランゲラックの果たす役割は過去数年よりも大きいかもしれない。

昨季ルヴァンカップを制した福岡【写真:徳原隆元】
昨季ルヴァンカップを制した福岡【写真:徳原隆元】

昨シーズン7位の福岡は「組織力」で高評価、前線の戦力に不安も

 中盤は柏レイソルから加入した椎橋慧也が、さらにブレイクする可能性は高い。ルヴァン王者のアビスパ福岡から加入したFW山岸祐也はハードワークと決定力という普通は相反しそうな強みを兼ね備えており、彼自身の得点だけでなく、エースのキャスパー・ユンカーが得点数を伸ばす助けにもなり得るため「攻撃力」はサンフレッチェ広島と並ぶ80にしている。あらゆる要素がうまく噛み合えば浦和レッズやヴィッセル神戸に匹敵するポテンシャルを備えるが、成功と失敗の振り幅が大きいと見て、開幕前の評価は8番目というところに留めた。

 優勝となると難しいが、上位争いに絡んでくるポテンシャルを備えるのはアビスパ福岡だ。昨シーズンは7位にジャンプアップし、ルヴァン杯でクラブ初のメジャータイトルを獲得した。長谷部茂利監督が就任5年目で、堅守速攻のスタイルを継続できるのもプラス材料だ。そのため「守備力」を80、「組織力」を85としている。ただ、色々なメディアで福岡を上位に推す声が少ないのは山岸が抜けた前線で、明確に2桁得点を期待できるアタッカーがいないからだろう。

 得点数のポテンシャルという意味ではルキアン(→湘南ベルマーレ)の移籍も痛い。新戦力のFWナッシム・ベン・カリファ(←サンフレッチェ広島)は攻守にハードワークできる優良外国人だが昨シーズン、広島で2得点という結果が示すとおり、いわゆる点取り屋ではない。2年目の紺野和也は間違いなく結果を問われるシーズンになるが、得点面で何かサプライズ要素がないと、昨年の7位を超える躍進は難しいだろう。

 その福岡とのアウェー開幕戦に臨む北海道コンサドーレ札幌は「攻撃力」が自慢。小柏剛がFC東京に移籍したが、“ミシャ”ことミハイロ・ペトロヴィッチ監督の目指すスタイルに変化はなく、3年半ぶりの復帰となるFW鈴木武蔵(←ガンバ大阪)や大卒2年目の大森真吾、キャンプの練習試合でゴールを量産した18歳のFW出間思努など、点を取るタレントは多い。

 また、パリ五輪の代表候補でもある新加入の近藤友喜(←横浜FC)が右ウイングバックで定着できれば、浅野雄也を本来のシャドーに戻すことができる。キャンプ中は怪我人が多く、なかなかベストメンバーが揃わないなかでのやりくりが目立っていたが、福岡戦にどう合わせて行けるか。また攻撃的なスタイルは変わらないが、守備に対する意識は練習中から1つのミスをうやむやにせず話し合うなど、ピリッとした雰囲気が漂っているのはプラス材料だろう。

 ディフェンスリーダーの岡村大八も怪我から復調してきている。「守備力」は昨シーズンの結果もあり60としているが、ここを70ぐらいまで上げられれば、長谷川竜也(←横浜FC)や期待の大卒ルーキー田中克幸(←明治大)など、新戦力のフィットも合わせて上位に届くポテンシャルは備えている。

町田はJ2で培ったストロングスタイルを活かせるか【写真:徳原隆元】
町田はJ2で培ったストロングスタイルを活かせるか【写真:徳原隆元】

積極補強で話題の町田、J2でも見せた“ストロングスタイル”に注目

 残るCランクのFC東京、FC町田ゼルビア、京都サンガF.C.、ガンバ大阪にも上位の可能性は十分にあるが、飛躍の条件を満たすことが必要になってくる。FC東京は戦力的なポテンシャルは上位候補に挙げた8クラブに割って入るだけのものはあるが、伝統的な勝負弱さを上書きできるリーダーシップや継続力といった、データに表れにくい要素をワンランク上げていく必要がある。

 その意味では“3人キャプテン”の1人となる松木玖生が心身ともにチームを牽引する存在へ化けることは不可欠。また”兄貴”の愛称を持つ小泉慶が真のリーダーになれるかどうか。新戦力のMF高宇洋(←アルビレックス新潟)なども、何か問題を感じたら遠慮なく発言できる雰囲気をチーム全体で作っていきたい。ピーター・クラモフスキー監督の采配も含めて「組織力」を60と低めにしたが、ここが80ぐらいに引き上がれば、上位躍進に直結するのは間違いない。

 町田は積極補強で話題を集めるが、やはり黒田剛監督がJ2でも見せた“ストロングスタイル”に注目だ。理想的なスタイルを追うのではなく、勝利から逆算して必要なプレーをチーム全体で徹底していく。「組織力」はJ1でも上位に値するということで80に評価した。理論派の金明輝コーチがサポートする戦術的なタスクに、個性を上乗せする戦い方はJ1でも対戦相手を困らせるはず。昌子源(←鹿島アントラーズ)という新たなディフェンスリーダーの存在も頼もしい。「攻撃力」は現状評価で60にとどめているが、スーパーエースのエリキがどこかで復帰し、本来の決定力を発揮できれば+10は期待できる。

 京都は曺貴裁監督が高める「組織力」を80にしたが、攻守に昨シーズンの主力にアウトがあったため「攻撃力」と「守備力」をそれぞれ65としている。攻撃面では新外国人マルコ・トゥーリオ(←セントラルコースト・マリナーズ)のフィットなどもちろんだが、得点力を牽引する原大智と豊川雄太が、それぞれ昨シーズンと同等か、キャリアハイのゴール数を稼ぎだすことが躍進の鍵になる。

 守備面はJ2清水エスパルスから加入の鈴木義宜がディフェンスリーダーになり得るが、トランジションの早い京都のスタイルに慣れるには少し時間を要するかもしれない。リーグ戦の優勝は難しくても、ルヴァン杯や天皇杯でのタイトル獲得は十分に期待できる。そのためにも早めに勝ち点を稼いで、まずは残留を確定させていきたい。

 G大阪は非常に効果的な補強をしており、戦力のポテンシャルはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)エリートの権利を獲得できる3位以内も狙っていけそうだ。特に心身両面でリーダーシップを発揮できる中谷の加入が大きい。ただ、ダニエル・ポヤトス監督の掲げる攻撃的なスタイルが、完成度が上がるほど、相手は裏返しのカウンターからゴールを狙いやすい。

 そこを中谷や同じ新加入のMF鈴木徳真(←セレッソ大阪)がどうコントロールしていくのか。まだ山田康太(←柏レイソル)など、クリエイティブなタレントが加わった「攻撃力」は現在の70を引き上げる可能性はあるが、ゴールはもちろんフィニッシュまで攻め切る回数を増やすことで、守備のリスクを軽減させることにもつながる。そこが改善されて、攻守が噛み合ってくれば面白いことになりそうだ。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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