「今このチームに遠藤航がいたら」 日本人MFとシュツットガルトを成長させた苦難の年月【現地発】

遠藤航とコンビを組んでいたアタカン・カラゾル【写真:Getty Images】
遠藤航とコンビを組んでいたアタカン・カラゾル【写真:Getty Images】

遠藤の移籍に衝撃を受けた同僚MF「ニュースを最初SNSで目にしたんだ。寝耳に水」

 ブンデスリーガで首位を走るレバークーゼンに次いで、新鮮な驚きをもたらしているのがシュツットガルトだ。ドイツカップ準々決勝ではそのレバークーゼンと対戦し、負けはしたものの、そのパフォーマンスの素晴らしさをドイツのサッカーファンから称賛されていた。

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 それにしてもここまでの激変を誰が予想しただろうか。シュツットガルトの今季は遠藤航のリバープール移籍という大きな衝撃とともにスタートした。

 直近2シーズンでギリギリのところで残留を果たせたのは遠藤の貢献によるところがとても大きかっただけに、2ボランチでコンビを組んでいたアタカン・カラゾルは大きなショックを受けたという。

「ワタルがリバープール移籍かというニュースを最初SNSで目にしたんだ。寝耳に水というか、突然のことにびっくりしたし、『最悪だ!』と思ったよ」

 ただ、そんなカラゾルだったが、シーズンが始まると遠藤不在を感じさせないプレーでチームの心臓部を支えている。セバスティアン・ヘーネス監督はカラゾルのブレイクスルーについて2つの要因を挙げていた。

 1つ目が責任感の芽生え。それまでのカラゾルはレギュラーではあるが、主軸選手と言えるまでの存在ではなかった。チームのことを考えるより、まず自分のやるべきことだけに集中して取り組む。遠藤の幅広いサポートによって機能していたわけだが、その遠藤がいなくなった以上、よりチームのことに目を向ける必要が出てきた。自分の殻を破ろうとしたことで、これまで以上にダイナミックなプレーを見せてくれている。

 2つ目の要因がアンジェロ・スティラーの加入だ。バイエルン・ミュンヘンの下部組織出身であるスティラーは、ホッフェンハイム時代にヘーネス監督の下でプレーしており、ゲームのリズムを生み出す司令塔として重要な役割を担っている。

「アンジェロは技術に優れ、ボールを失うことがなく、深いポジションから攻撃を起動させるプレーを見せてくれる。彼からリズムが生まれる」(ヘーネス監督)

 新しい相棒とカラゾルの相性は抜群だった。ヘーネス監督は「カラゾルは守備面でチームに安定感をもたらし、オフェンス面でもアンジェロと同じイメージでプレーできている。2人は私にとって理想的な組み合わせだ」と絶賛している。

遠藤がいれば…ボックス・トゥ・ボックスの選手として穴を埋めながら攻守に貢献

 遠藤とカラゾルは役割分担が時にはっきりしすぎていた面もある。カラゾルは完全に守備専任で、そのため遠藤が担わなければならない役割が多様化。その時と比べると、スティラーとカラゾルのコンビはより幅広い関りができている。

 当時、苦戦しながらの取り組みが遠藤のその後の成長につながったことを考えると、今このチームに遠藤がいたら相当面白い関わり合いが生まれていたのではと思わずにはいられない。

 スティラーがオーガナイザーとして中盤でゲームをコントロール。遠藤はボックス・トゥ・ボックスの選手としてあらゆる穴を埋めながら、攻守に絡む。カラゾルは2人との関係性でつながりを強化しつつ、守備をサポートする。

 試合展開に応じて、さらにテクニカルで狭いスペースでも優れたプレーを見せるマフムド・ダフート、よりゴールへ向かう動きが魅力のエンゾ・ミロとの組み合わせも生きてくる。3バックから4バックへの移行もオプションに入ってくるし、そんな可変式にも対応できるチームになっていたかもしれない。

 リバープールで確固たる居場所を確立しつつある遠藤と、遠藤離脱後にチームとしての成熟さを見せているシュツットガルト。残留争いが続いた苦難の年月は、それぞれの成長へとつながる大事な時間だったのだ。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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