W杯招集…アジア杯落選 ドイツで奮闘する日本人FWの今「高卒選手がプロでやる感じ」【現地発】
湘南からドイツ2部キールへ完全移籍の町野が異国で実感「全然違います」
ドイツ2部ホルシュタイン・キールでプレーするFW町野修斗は、ドイツサッカーにおけるデュエルの激しさと求められているプレーに日々向き合っているようだ。
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町野がスタメン出場を果たした2月1日の第20節、FW伊藤達哉が所属するマクデブルク戦では1-0とリードを奪っていた後半30分に途中交代。町野はチームメイトとともにベンチ前に乗り出しながら最後まで応援していたが、後半アディショナルタイムに同点ゴールを奪われてしまう。試合終了後しばらくその場から一歩も動かず、じっとグランドを眺めていたのが印象的だった。
終盤の失点までの流れをどのように見ていたのだろう。
「最後押し込まれていた。僕と交代した選手は(背が)大きくて、もうちょっとセカンドボールを拾ったり、もうちょい前で(味方が)回復する時間を作ってくれたらと。でも自分が出た時も同じような展開だったので、難しかったですね」
ドイツのサッカーに順応するのは簡単ではない。特に2部リーグはボールを意図的に回して主導権を握り切れるだけのクオリティーを持ったチームが少ないこともあり、勢いで流れを作り出そうとする傾向が強い。
2部でロングボールが多いのは、相手チームに完璧に跳ね返されて、ボールをキープされることが起こりにくいからだろう。ルーズボールになり、相手選手のミスが生じる可能性も十分ある。逆に言うとミスを誘発したり、隙を突くような動きが攻撃的な選手には求められたりするわけだ。
いずれにしてもピッチ上での攻守の切り替えが多く、インテンシティー(プレー強度)が常に高いのは、素早くプレーしようと慌ててミスをして、それを取り返すために走らなければならないことが少なくはない。
2部リーグの戦いにおける重要なポイントは、おそらくこの事実を受け止め切れるかどうかだろう。
自分の特徴を出せるスペースに自分がほしいタイミングでパスはあまりこない。激しいぶつかり合いや連続した守備で相手の良さを消しながら、ふとした瞬間に訪れるチャンスを生かし切れるかが求められる。
2022年11月のカタール・ワールドカップ(W杯)で追加招集され、2023年6月に湘南ベルマーレからドイツ2部キールへ完全移籍した町野は、どのように現状を捉えているのだろう。
「高卒選手がプロでやるような感じかなっていうのを想像してたんです。実際(Jリーグの時と比べて)フィジカルもインテンシティーも全然違います。ゆっくりしてる暇もあんまりない。想像どおりです」
今季の目標は「ドイツサッカーに慣れること。チームにもっと順応していくこと」
幅広く動きながらのポジショニング、マンマークに対してのポストワーク。町野は、なかなか自分のタイミングでシュートに行けないことを悩んでいるかもしれない。オフェンシブな選手として「ゴール」「アシスト」という結果がほしいのは言うまでもない。FWとしてゴールに直結するプレーがチームを助ける何よりの貢献であり、メディアからの評価は特にそこで左右されるのが事実だろう。
マクデブルク戦では相手に押し込まれ、司令塔の元ドイツ代表MFルイス・ホルトビーがハーフタイムで交代という事態もあり、ビルドアップも思うように上手くいかず、前線で孤立していたという背景がありながら、町野につけられた採点は、落第点の5(ドイツでは1が最高、6が最低)。
それでもまずは出場し、プレーすることが大事だ。チームが求める仕事を100%やり抜く。走り、飛び、身体を張る。パスが来るかもしれないと信じて走り抜ける。ボールがこぼれてくるかもしれないと準備をし続ける。その先に「結果」が付いてくる。
地元紙「キーラーナッハリヒテン」から、「2部リーグに必要なハードさにすでに慣れているのか」という質問を受けていたことがあった。
「いや、まだですね。ドイツサッカーに慣れていかないと。毎日のトレーニングでハードに取り組んでいる。競り合いの1つ1つが僕の助けになってくれる」
そして今季の目標について次のように答えているのが印象的だ。
「僕の目標はドイツサッカーに慣れること。そしてチームにもっと順応していくことです」
まず成長と向き合う時期が必要なこともある。肌感覚レベルで瞬時に最適なプレーができるようになるまで取り組むことが、そのあとの爆発につながると信じて。
矢印を自分に向けて辛抱強く取り組む時間が無駄になるはずがない。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。