ドイツで“切り札”として活躍…MF伊藤達哉の本音は? 「タツは素晴らしかった」と監督絶賛の訳【現地発】

ドイツ2部マクデブルクでプレーする伊藤達哉【写真:Getty Images】
ドイツ2部マクデブルクでプレーする伊藤達哉【写真:Getty Images】

20節キール戦、途中出場の伊藤達哉がゴール演出 監督「タツによるところが大きい」

「切り札」となる選手を持っているチームは強い。試合にはさまざまな流れがある。どんなチームも試合前に相応の準備をして臨むが、自分たちのイメージどおりに試合を運べることのほうが少なかったりする。膠着状態のまま終盤を迎えることがあれば、失点を重ねて意気消沈してしまうこともある。なんとかしようと監督やコーチは頭を悩ますが、変化をつけようと打った一手が思ったようなポジティブな効果をもたらさないことだってある。

 そんな時に、試合の流れを一変させるプレーができる「切り札」と呼ばれる選手たちがいると、指揮官はカードを切るための決断がしやすい。

 ブンデスリーガ2部のマクデブルクでプレーする26歳MF伊藤達哉は、クリスティアン・ティッツ監督にとってそういう貴重な存在だ。20節ホルシュタイン・キールとのホーム戦では、0-1で迎えた後半アディショナルタイムに同点ゴールが生まれて、大事な勝ち点1を手にしたマクデブルクだが、そのゴールを生み出したのは伊藤だった。

 ペナルティーエリア内で味方からパスを受けると、必死に守ろうとするキール選手4~5人を鋭いシュートフェイントからのステップで翻弄して、シュートに持ち込む。GKが辛うじて弾いたものの、ゴール前に詰めていた味方選手が押し込み、スタジアムのファンを歓喜させた。

 試合後、ティッツ監督に話を聞いたら、こちらが驚くほど熱っぽく伊藤について語ってくれた。

「タツは今日、本当に素晴らしかった。だがそれも彼の持つクオリティーがあってのことだ。彼のことはもうずっと昔からよく知っている。ハンブルク時代からだ。タツは私にとっていつでもレギュラー選手の1人なんだ。今は途中出場からの仕事がメインになっているが、タツが違いを生み出すことができることを我々はよく知っている。途中から出場したら連続でダッシュをして、1対1でドリブル勝負を仕掛けることができる。今日最後に1-1の引き分けに持ち込むことができたのは、タツによるところが大きい」

 今季、ここまで伊藤のスタメン出場はまだ1度だけ。だが存在感は大きい。終盤相手の足も止まりつつある時に繰り出される伊藤の切れ味鋭いドリブルと裏への飛び出しは、間違いなくチームのゲームプランの中に深く書き込まれているのだから。

 ティッツ監督に、伊藤起用のタイミングについても尋ねてみた。

「正直言えば、今日だってもっと早い段階で投入したかったんだ。ただ、監督として試合の流れを見ることも必要になる。今日で言えば、スタメンでプレーしていた選手が左サイドでかなりいいプレーをしてくれていたんだ。ただ終盤さらにサイドから1対1で仕掛けられる選手を投入して、相手を押し込もうと思ってタツを投入したという流れだった」

途中出場が通例、伊藤達哉は何を思うのか? 「完全にハッピーじゃないですけど…」

 伊藤本人はどうなのだろう。途中出場が通例化していることを、自分の中で消化できているのだろうか。

「監督とも話していますし、とりあえずはそうですね。それで完全にハッピーじゃないですけど、途中から出てできることがあるし、なのでそこは別にそこまで気にはしていないです」

 伊藤は昨季5得点5アシストをマークしているが、リーグ戦33試合出場中26試合が途中出場と考えれば、この数字は高く評価されるべきものだろう。今季はさらに数字以外のところでプレーのクオリティーが上ってきていると感じているようだ。

「去年は途中からの出場が多かったなかで数字が結構出てたんですけど、そこまでボールを持った時に相手にとっての脅威になれてなかったと思うんです。今年はそういう意味では、相手がもう警戒してくれてる。試合の流れを変えたりとか、常に相手にとっての脅威になることができていると感じています。去年よりは自分としては数字は出てないですけど成長できていると思っています。なのであとは数字出さないといけないですね」

 キール戦の得点につながったプレーはキッカー誌によるとアシストに記録されていた。

「あれ、アシストになるのかな」

 ミックスゾーンで話を聞いている時にそんなことをつぶやいていた。選手はみんなどこかでやっぱり気にするものなのだ。チームの結果につながり、なおかつ数字として残るプレー。

「切り札」は確かな仕事をやってのけた。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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