長友佑都と同じ道を歩む現役慶大生Jリーガー 評価急上昇中の若者をプロ入りへとかき立てたもの

芽生えた自信、そして長友佑都も歩んだ道へ

 大学で培われた自信は、次第に「プロでやってみたい。勝負したい」という気持ちを後押しした。そこに東京からの正式オファーが届いた。

 ただし、すぐに首を縦に振ることはできなかった。前のめりになる気持ちを抑えなければいけない理由があった。3年から慶大の10番を背負い、関東大学リーグ1部でチームトップの10得点を挙げるエースにまで成長していたのだ。決断は容易ではなかったが、すべてを決めて自らの素直な気持ちをチームメートに伝えた。

「プロに行きたいと言うと、みんな驚いていたが、行ってこいと背中を押してくれた。本当に慶應には感謝の気持ちしかない」

 そして、今季から現役慶大生Jリーガーが誕生し、いきなり開幕スタメンを勝ち取った。過去には、明大から加入した長友佑都(現・インテル)が、FC東京と大学4年からプロ契約を結び、不動のレギュラーをつかんだ。彼と同じ道を歩もうとしたが、最初から活躍できるほどプロの世界は甘くはなかった。無得点が続くと、徐々に先発とベンチを行き来するようになっていった。

 しかし、3年前のように背を向けようとはしなかった。

 前向きに取り組み続け、練習では自らの存在を誇示し続けた。その男に歓喜の瞬間は訪れた。

 16日のナビスコ杯神戸戦でついにプロ初ゴールを決めたのだ。その試合直後、「外してきたので、焦りもあった。やっと入った」と言って一呼吸置き、続いた言葉からはプロの矜持がにじんだ。

「ここから何点でも取れる」

 そして、宣言通りの公式戦2戦連発を果たした。太鼓の拍子に合わせ、観客席から届く「ムトウ、ムトウ」の合唱に両手を振って応えた。「自信がない」と言った、かつての姿はどこにも見当たらない。武藤はこの日も重ねるように「もっと得点を量産したい」と、さらなるゴールを希求した。

 若さからくる青っぽい強がりなどではない。少しだけ回り道して手にしたのは、揺るぎない自信だった。すでに、売り出し中のルーキーが放つ“それ”ではもうないのだ。

【了】

馬場康平●文 text by Kohei Baba

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