1G1Aの堂安律も手応え「アグレッシブ」 フライブルクEL5発快勝の裏側…メリット・デメリットを見極めた見事な一手【現地発】

ELオリンピアコス戦で1ゴール1アシストの堂安律【写真:ロイター】
ELオリンピアコス戦で1ゴール1アシストの堂安律【写真:ロイター】

ELオリンピアコス戦で5-0勝利、フライブルク堂安は1ゴール1アシストの活躍

 現地時間11月30日、UEFAヨーロッパリーグ(EL)のグループステージ第5節オリンピアコス戦で1ゴール1アシストの活躍を見せた堂安律。この試合では4-4-2の右MFとして、攻守に何度も重要なプレーで5-0快勝に貢献していた。

 この試合では得点シーン以外にもペナルティーエリア付近でボールに触り、惜しいチャンスを次々に作り出していたのが印象的だった。

 昨シーズンの堂安は「ゴールやアシストをマークできそうなところでボールをもらうところはできている」と常に口にしていたが、今季は同じような感触を持てているのだろうか。

「5バックになるとやっぱりゴールから少し遠ざかっちゃう。そこがちょっと去年と違うところかなと。今日は1、2本シュートを打てる場面でパス選択したところとかありましたけど、あそこでボールを受ければシュートは打てる。4バックであれば比較的ゴールまで行けている感覚はあります」

 4バック待望論はフライブルク地元記者からも根強い。クリスティアン・シュトライヒ監督の記者会見では頻繁に、「3バックよりも4バックのほうがいいのではないか?」という質問が飛ぶし、選手もそう思っているというエビデンスを勝ち取るために、ミックスゾーン(取材エリア)で「4バックのほうがいいと思うけど、どう?」という質問を仕掛ける記者も多い。

 シュトライヒ監督はそうした声に理解を示しながらも、オートマティックに4バックを起用することが最良なわけではないことをいつも丁寧に説明する。

「システム同士のかみ合わせというのがある。4バックを起用することで生じるメリットがある一方で、デメリットも生じる。3バックを採用する時も同様だ。相手チームとの兼ね合いもあるし、チームで起用できる選手の状態というのもある」

 そんなシュトライヒ監督が、今回のオリンピアコス戦で4バックに踏み切っただけに驚きの声もあった。

「左サイドバック(SB)としてヨルディ・マケンゴを起用したのは、トレーニングを見ていて『そろそろスタメン起用でもいけそうだ』という感触を掴んでいたからだ。右SBにはキリアン・シルディリアを起用し、いつでも3バックに移行できるように準備もしておいた」

フライブルクの一手が奏功、スタメン起用の時期を見極めながらバランスも考慮

 不動の左SBでキャプテンのクリスティアン・ギュンターが長期負傷欠場しているのに加え、右SBルーカス・キューブラーも負傷離脱中。ここ最近は世代別代表の22歳ノア・バイスハウプトを左ウイングバックに起用するやり方が上手くいっていたが、それですべての問題が解決するわけではない。

 だからといってバイスハウプトを左SBで起用するには守備における経験がまだ十分ではない。マケンゴはここ最近、3部所属のU-23チームから昇格してきた選手。スタメンを任せられる時期というのは正しく見極めることが必要だ。

 厳しい流れになっても冷静さと勇敢さを失わずにプレーできるかどうかを見定めるのは簡単なことではない。選手はピッチ上でフィジカル的な負担だけではなく、頭の中もフル回転させながらプレーをしている。20~30分の出場でも、若手選手にとっての疲労度は大きいのだ。

 また昨季のように2トップでといっても、オーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリッチは負傷の影響で今季満足なパフォーマンスを発揮できていなかった。ザルツブルクから獲得したFWジュニア・アダムも同様だ。2トップで起点を作り、前線へ押し込むことができないと、逆に攻守のバランスが壊れてしまう。

 監督はどの選手が、どのくらいの負荷で、どのくらいの時間プレーが可能かをコーチ陣と密に話し合いながら決めている。4バックのほうが機能性は高くなる可能性は高くても、どこかで綻びが生まれるデメリットを危惧しなければならない。

 シュトライヒ監督はその一手を打てる時をじっと待ち、そして今回見事にハマった。

ハットトリックのFWグレゴリッチも手応え「愚痴を言ったりせず…」

 ハットトリックの活躍でチームをのびやかにしたグレゴリッチは、喜びとともに苦しかった心境も明かしている。

「簡単ではなかったよ。でも愚痴を言ったりせず、とにかくやり続けようとしてきた。みんな僕に何かがつかえていることを分かっていたと思うし、だからこそゴールが決まったことは僕にとって、とても重要だった。スタジアムのファンみんなが僕のゴールを喜んでくれて、チームメイトみんなが僕のところに駆け寄ってくれて。このチームでプレーすることができて本当に誇りに思うし、幸せなことだよ」

 同じく好プレーで快勝に貢献した堂安も試合後に手応えを感じていた。

「フライブルクのアグレッシブな、ちょっと去年っぽいようなパフォーマンスがチームとしてできたんじゃないかと思います」

 オリンピアコス戦後、12月3日のブンデスリーガ第13節マインツ戦でも1-0と勝利を収めて公式戦2連勝。1つのきっかけでチームは羽ばたき出す。フライブルクがここからどのように勢いを取り戻していくのかに注目したい。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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