なでしこジャパン、アジア大会Vでメンバー争い激化 10代タレントも台頭…パリ五輪予選は“生き残り”懸けた場に【コラム】

なでしこジャパンのパリ五輪への戦いがスタートする【写真:Getty Images】
なでしこジャパンのパリ五輪への戦いがスタートする【写真:Getty Images】

パリ五輪出場権懸け、10月下旬からアジア2次予選がスタート

 池田太監督が率いるなでしこジャパンは10月下旬にウズベキスタンで行われるパリ五輪アジア2次予選のメンバー22人を発表。ベスト8に進出した女子ワールドカップ(W杯)からは同大会中に肩を負傷したFW浜野まいか(チェルシー)、同じく怪我で不参加となったMF藤野あおば(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)が外れた以外は全く同じメンバーとなった。

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 そのなかで9月のアルゼンチン戦は選外で、金メダルを獲得したアジア大会に出場した“千葉の千葉”ことFW千葉玲海菜(ジェフユナイテッド市原・千葉レディース)が復帰。一方でアルゼンチン戦に招集されたMF三浦成美(ノースカロライナ・カレッジ)とDF宝田沙織(リンシェーピング)は外れた。

 池田監督と佐々木則夫委員長の説明をまとめると、固定的なメンバー構成になった理由としては2つある。1つは今回の予選が非常にタイトな日程で、連係面やなでしこジャパンの戦術理解が生命線になること。もう1つは早い時期に選手登録を済ませなければならず、決勝で北朝鮮を4-1と破るなど、大躍進を果たしたアジア大会の評価を反映できなかったことだ。

 アジア大会で大きく評価を上げた選手には、パワフルなミドルシュートを武器とする18歳のMF谷川萌々子(JFAアカデミー福島)と獅子奮迅のディフェンスから“女冨安”との呼び声もあった17歳のDF古賀塔子(JFAアカデミー福島)も含まれるはずだが、今回の活動で2人はW杯に引き続き、国内合宿中のトレーニングパートナーとして参加するという。

 アジア2次予選C組の相手はFIFAランキング34位のベトナム、50位のウズベキスタン、61位のインド。現在8位の日本にとって世間一般的な言い方をすれば“格下”の相手となるが、予選というシチュエーションで簡単に行かないことを想定して、準備する必要がある。何しろW杯で世界の強豪と戦ってきて、準々決勝でスウェーデンに敗れたものの世界の舞台で十分に渡り合えることを証明したあとで、逆に進め方の難しさが出てくることは間違いない。池田監督はアジアでの難しさを語る。

「W杯とは違った難しさがあるというのは経験ある選手もしっかりと伝えてくれています。アジアでの戦い……まあ、各国の特徴はありながらも、やはり似たような俊敏性を持っていたり、アジアの中のやりにくさ。また日本に対してどうしてくるか。各国の対策に対するこちらの対応の難しさは出てくると思っています」

 アジア大会の女子チームは狩野倫久監督が率いていたが、池田監督も同大会を視察しており、ベトナムとウズベキスタンの試合を観ることができたという。ベトナムに関しは「マンツーマンで人にしっかりと付いてきて、アグレッシブなサッカーをしてくるので、スペースを作る、使う、そういったことを考えていかないといけない」と池田監督。ウズベキスタンについては「前線にアイデアのある選手もいるので。監督は日本人の本田(美登里)さんですし、日本をよく知っているコーチもいる」と警戒する。

 そうは言ってもインドを含めてなでしこジャパンが確実に乗り越えていくべき相手であることは間違いない。やはり最大の難関はパリ五輪のたった2つの出場枠をかけて戦うアジア最終予選だ。池田監督は「ホーム&アウェーになる一発勝負の厳しさというのもレギュレーションをこの前も、ミーティングで選手と共有して、どういう戦いになっていくか。やれることも確認しました。選手の中でもそうですし、我々もどう戦っていこうかは伝えたい」と語る。

 2次予選を1位で突破した場合、4か国による最終予選は来年2月24、28日にホーム&アウェーで行われるが、2次予選3グループの2位の中から最も成績の良い1か国が最終予選に残る関係で、流動的になっている。条件を説明すると煩雑になるので、ここでは言及を避けるが、日本が対戦する可能性があるのはA組1位、B組1位、B組2位のどれか。A組1位はオーストラリアが大本命。B組は韓国、中国、タイ、北朝鮮が同居する“死の組”で、どこが相手でも強敵になる。

女子ワールドカップで得点王に輝いた宮澤ひなた【写真:ロイター】
女子ワールドカップで得点王に輝いた宮澤ひなた【写真:ロイター】

W杯得点王・宮澤ひなたをはじめ、現在の主力メンバーも厳しい競争に

 当面の大目標は来年夏のパリ五輪でメダルを獲得することだが、リオ五輪は予選敗退、東京五輪は開催国として、予選が免除されていた。しかも今回の最終予選はこれまでにないレギュレーションで、日本にとっても未体験となるだけに、油断は禁物だ。もちろん日本の目指すところを考えれば、ここで負けるわけにはいかない。同時にアジア予選は選手たちにとってパリ五輪に向けたサバイバルでもある。

 金メダルを獲得したアジア大会で、谷川と古賀のほかにも10番を背負ったMF塩越柚歩(三菱重工浦和レッズレディース)をはじめ、主に右サイドから多くのゴールに絡んだMF山本柚月(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)、”WEリーグの三笘”の異名をとり、藤野の不参加で追加招集されたMF中嶋淑乃(サンフレッチェ広島レジーナ)、175センチのハイスケールなGK浅野菜摘(ちふれASエルフェン埼玉)などが猛アピールしている。

“アジア大会組”のほかにも、準優勝に輝いた昨年U-20W杯の主力で、米国のナショナル・ウィメンズ・サッカーリーグで躍動しているFW松窪真心(ノースカロライナ・カレッジ)など、所属クラブでの活躍が目を引く選手は国内外にいる。東京五輪はコロナ禍の特別措置で22人だったが、パリ五輪では18人に戻るとも伝えられており、5得点でW杯のゴールデンブーツを獲得したMF宮澤ひなた(マンチェスター・ユナイテッド)をはじめとした、現在の主力メンバーも厳しい競争を強いられることになる。

 まずは2次予選を無事に首位で突破し、最終予選に進むことが大前提だが、チームとしての戦いの中で、選手たちがなでしこジャパンでの存在価値をいかに示すか注目したい。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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