ついに“長谷部頼み”から脱却? 鎌田ら主力退団…新生フランクフルトの現在地【現地発】
攻撃を牽引した3選手が揃って移籍、新監督の下でチーム作りを進めるフランクフルト
フランス代表FWランダル・コロ・ムアニ、デンマーク代表MFイェスパー・リンドストローム、そして日本代表MF鎌田大地は、昨季までドイツ1部フランクフルトの攻撃を牽引していた選手だ。そんな3選手が揃って今夏に移籍。コロ・ムアニはパリ・サンジェルマン(PSG)、リンドストロームはナポリ、鎌田はラツィオという新天地へ旅立ち、さらにはクラブをUEFAヨーロッパリーグ(EL)優勝、クラブ史上初のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)出場とグループリーグ突破へ導いたオリバー・グラスナー監督もクラブを去った。
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新監督ディノ・トップメラーの下で新しい戦い方を模索しているフランクフルトは、果たしてどんなチームになろうとしているのか。今季はどこまで上位を狙えるチームになれそうなのか。
取材に訪れたUEFAカンファレンスリーグ(ECL)のアバディーン戦(2-1)は、特に攻撃面での課題を感じさせられる試合内容だった。コロ・ムアニのようにボールを収められる選手、リンドストロームのように変化を作り出せる選手、鎌田のようにずれを見つけて生かせる選手がいないなか、元ドイツ代表MFマリオ・ゲッツェを中心に崩しの局面作りを図る。
だがゲッツェにしても孤立することが多く、パスを受けても良い位置に良いタイミングでサポートにきたり、スペースへ抜け出してくれるという関係性がまだ少ないため、効果的な攻撃へとつながりにくい。スピードのある選手はいるし、20歳のアメリカ代表MFパクステン・アーロンソンは将来性を感じさせるが、まだやはり経験不足は否めない。
アバディーン戦ではセットプレーから2得点を挙げて勝利したが、その後ブンデスリーガのフライブルク戦(0-0)、ボルフスブルク戦(0-2)と2試合連続無得点。相手GKのファインセーブで阻止されたチャンスもあるとはいえ、チャンスの質と量はまだまだ物足りない。
トップメラー監督はアバディーン戦後にドイツ人記者から「オフェンシブサードからのチャンスが少ないことについて」質問されると、次のように話をしていた。
「相手に守備を固められたら難しいというのもあるが、素早いパス交換とサイドチェンジの有効活用、サイドで1対1の局面、エリア内へのクロス、エリア内での選手数を揃えるというところにもっと取り組んでいかないと。あとは途中出場選手が新しいエネルギーをもたらしてくれることが大事」
チーム作りを難しくしている点とは? 「それなら長谷部誠は?」というアイデアも
チームの成熟にはやはり時間がかかる。スタメン表を見ると新しい名前がずらっと並ぶ。GKケビン・トラップ、キャプテンのMFセバスティアン・ローデ、センターバック(CB)のトゥータ、そしてゲームメーカーのゲッツェの4人がこれまでの主軸から残っているメンバー。ほかにも昨季からプレーしている選手は少なくはないが、チームに欠かせないほどの存在感を発揮していた選手ではない。
チームにおける貢献や経験という点でも、この4選手を中心にチーム作りをしていきたいところだが、今季限りで引退を表明しているローデが負傷がちでフル稼働できないのが、チーム作りを難しくしているという印象を受ける。
「それなら長谷部誠は?」というアイデアも当然出てくる。3バックのセンターでは新加入の元ドイツ代表ロビン・コッホが安定感のあるプレーで第一選択肢となり、コッホを中心とする守備は全体的に悪くないだけに、長谷部のボランチ起用でゲームコントロールやチャンスメイクのクオリティーアップにポジティブな作用をもたらすはずだ。
トップメラー監督自身、長谷部のボランチ起用について「ビルドアップからゲーム全体を見通す能力を持っている。ボールを持った時の落ち着きもあるし、チームに多くのものをもたらすことができる」と口にしていたこともある。可能性がないわけではない。
ただクラブとしては、いつまでも長谷部に頼ったチーム作りをしていくわけにはいかないだろうし、ケルンから加入のチュニジア代表MFエリアス・スキリは首脳陣からの期待も大きいものの、チームに順応するまでまだ時間が必要という側面もあるのだろう。例年だと、それでも11月頃から長谷部に頼るというのが恒例だが、今季もそうなるのかどうかは1つの注目点となりそうだ。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。