運命の静岡ダービーで「俺は決めると思います」 宿敵・清水相手に「自分が外して…」闘志燃やす磐田アタッカーたち【コラム】

磐田でプレーする後藤啓介と古川陽介【写真:徳原隆元】
磐田でプレーする後藤啓介と古川陽介【写真:徳原隆元】

昇格レース佳境で迎える静岡ダービーへ、後藤&古川が抱く思い

 現在J2で2位のジュビロ磐田は3位の清水エルパルスと敵地アイスタで対戦する。今季はラスト5試合。リーグ戦で2度目の静岡ダービーは、自動昇格圏を争う両者にとって命運を懸けた最も重要な一戦となる。キャプテンの山田大記が「どちらが自動昇格権を掴み取るかを決するような大事な意味合いを持つダービーになる」と言うように、どのような結果になっても歴史に残るダービーになることは間違いない。

 そのダービーに向けて、闘志を燃やしている2人の若きアタッカーがいる。古川陽介と後藤啓介だ。古川は1-1の引き分けに終わった昨年10月の静岡ダービー(アイスタ)を振り返り「自分が最後に外して、降格という結果になってしまって。すごい責任もあるし、去年の雪辱のためにも、チームのキーマンになれるように。次の試合が大事になってくる」と語る。

 当時は武器であるドリブルを押し出しながら、がむしゃらに勝負していた印象も残っているが、元日本代表コーチである横内昭展監督のもと、守備や周りを使うプレーの引き出し、インに入り込んでのフィニッシュなど、ドリブルをさらに研ぎ澄ませながらも状況に応じて繰り出すようになってきている。

「去年はああいう限定的な出方しかできなくて。今年の最初もそうだったんですけど、そこから工夫しながら自分も一個一個やってきて、手応えを掴めてきていますし、それはピッチで示すしかないと思っているので。練習から良い準備をしてやっていきたいです」

 チームを勝たせる選手になるというのが、古川がプレシーズンから強調してきたことだ。そのためにベンチ外だった開幕時から腐らず、現実に向き合いながら個の力を伸ばしてきた。エコパスタジアムで行われた3月18日の静岡ダービーではベンチ入りしたものの、交代の声がかからないまま2-2で引き分けた試合をピッチサイドから見送ることになった。1枚目の交代カードを切る前に、松本昌也の勝ち越しゴールが決まり、勝負の切り札である古川が出るシチュエーションではなくなったためだ。
 
しかし、6月25日の第22節ロアッソ熊本戦から17試合連続で出場を続けている。そのうちスタメンは5試合だが、ベンチスタートであってもさまざまな状況で横内監督が信頼して送り出せる選手になってきたのは確かだ。

 ただ、ここまでゴールは7月5日にツエーゲン金沢戦で記録した1ゴールのみで、アシストも9月上旬のブラウブリッツ秋田戦と大宮アルディージャ戦の2つにとどまっている。そんな古川が最近参考にしているのが、フランス1部スタッド・ランスでプレーする日本代表の中村敬斗だという。

「やっぱりゴール前の動きとかはフランスに行った中村敬斗選手とか。ドリブルは多分、自分のほうが自信あるんですけど、ゴールを取る仕事に関してはすごい勉強になる」

 中村は日本代表のトルコ戦で2得点。筆者が2ゴールした中村に取材した際に、その2タッチぐらいしかボールに絡めていないと本人が語っていたことを伝えると、トルコ戦を映像で観ていたという古川は「僕も観てて、あんまりほかの印象はなくて……だけど2点取った。そういうのも大事な部分」と強調する。

 静岡ダービーという大舞台で、自分の武器であるドリブルを繰り出していくことに加えて、ゴール前での大仕事をやってのけるか。自動昇格枠にも大きく影響する大一番だが、古川にとって、その先につながる舞台になるはずだ。

「シーズン開幕当初の啓介だったら…」18歳高校生FWの成長を同僚実感

 その一方で前回のダービーで開始2分にゴールを決めて、エコパを沸かせたのが18歳の後藤啓介だ。ジャーメイン良からの縦パスにタイミングよく飛び出し、ディフェンスを置き去りにするドリブルから左足でゴール右に突き刺した。リーグ戦の初スタメンだった後藤の衝撃的なゴールは“高校生Jリーガー”の名前を静岡のみならず、全国区に轟かせるゴールとなった。ただ、後藤もここまで順風満帆だったわけではない。

 5月3日の東京ヴェルディ戦で負傷交代を強いられ、目標にしていたU-20ワールドカップ(W杯)の舞台も逃す結果となった。「僕はパリに行くので」と気丈に語った後藤だが、2005年生まれの「ロス五輪世代」である後藤にとって、そこに飛び級で割って入ることが簡単ではないことは認識している。怪我から復帰後、途中出場を重ねながら徐々にコンディションを上げているところで、7月下旬のザスパクサツ群馬戦後にまた怪我をした。幸いにも早期に復帰できたが「練習もなかなか調子が上がらなくて。すごく悩んでいた」という。

 そんな後藤にとって1つの転機となったのが8月12日のFC町田ゼルビア戦だった。試合前に横内監督から「全部を直そうとしなくても、何か1つ戻せば、自然と戻ってくると思う」と声をかけられた。その時に思い浮かべたのがカタールW杯の前田大然だ。チームのために前線から人一倍、守備でハードワークをして日本代表に貢献していた。その前田がチームとして4試合目となるクロアチア戦で、ようやく自身のゴールを記録した。

 結局PK戦で日本は大会から去ることになったが、後藤は「がむしゃらにボールを追って、チームのために走って。どんなボールでも諦めずに追ってというふうにやっていれば、前田大然選手もクロアチア戦でゴールしましたし、自分も何かあるんじゃないか」と今できることに向き合った結果、最後のチャンスで松原后のゴールをアシストできた。

 8月26日のジェフユナイテッド千葉戦で2ゴールを決めてから、5試合ゴールに絡めていないが、後藤に焦りは感じられない。1-0で勝利した10月1日のV・ファーレン長崎戦では高い位置でボールを奪ったところからゴール前に走ってきたジャーメインにパスを出したが、マークが付いているジャーメインは合わせられず、相手にクリアで逃げられてしまった。

「ジャメくんしかいないと思いましたし、(マークと)被ってたんですよ。なので、ジャメくん見えたし、確率的には自分が打つよりゴールに近いと思って。ゴール前に出して、ジャメくんが流すだけって思ってたんですけど」

 後藤はそう振り返ったが、相手のマークが見えていなかったことが問題で、ゴール前にフリーの味方がいて、よりゴールの確率が高いと思えばパスを出すという考えに変わりはない。後藤のコメントをジャーメインに伝えると、現在9得点のストライカーは「あそこで啓介が俺にパスをくれるっていうことは成長っていうか。シーズン開幕当初の啓介だったら自分で行ってパス出さないと思うので」と語った。

 後藤も「自分のゴールで勝たせることがベストですけど、ゴールにつながらないプレーでもチームの勝利に貢献することができれば」と主張するが、静岡ダービーとなれば、自分のゴールで磐田に勝利を導くという思いは特別なものになる。「すべてて外してきたのが、次にとっておいたよねってなるように。次は決められると思います」と後藤は前を向く。

「3月18日。あの2分でゴールを決めたゴールから、あの引き分けから10月7日というのは意識してました。ここで決めれば多分、本当のスターになれると思うし、自分はやれると思っているので。なんて言うか分からないですけど……俺はダービーで決められると思います」

 磐田にとって運命を大きく左右し得る静岡ダービーは、飛躍を目指す2人の若武者にとっても価値を示す大舞台となる。彼らがJ1で輝き、さらには世界の舞台で活躍を見せた時に「あのダービー」として振り返るマイルストーンになるかもしれない。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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