鹿島が見せる夏場の力強さ 岩政監督のタクトで磨かれるタイトな守備と鋭いカウンター攻撃【コラム】

鳥栖では鹿島の試合巧者ぶりとコンディションの充実が光った【写真:徳原隆元】
鳥栖では鹿島の試合巧者ぶりとコンディションの充実が光った【写真:徳原隆元】

【カメラメンの目】スコア以上に光る鹿島の試合巧者

 J1リーグ第24節・鹿島アントラーズ対サガン鳥栖の一戦。後半、鳥栖のキックオフで始まると、鹿島FW垣田裕暉が猛然とボールを奪いに敵陣へと走る。それは厳しい気象条件をモノともせず、タフに戦い勝利したこの試合の鹿島を象徴している選手たちの姿勢だった。

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 試合は結果的に2-1の僅差で、しかも鹿島の決勝点が記録されたのは後半35分とスコアだけを見ると接戦の展開だった。だが、内容はスコア以上に鳥栖に自由にサッカーをさせなかった鹿島の試合巧者ぶりが光った試合となった。

 鹿島はキックオフから驚くほどのハイペースで試合に入っていった。前線からFW鈴木優磨と垣田が果敢にボールを持った相手選手へとプレッシャーをかけていく。中盤では樋口雄太や佐野海舟、ディエゴ・ピトゥカが鳥栖の選手を激しく追い込んでいった。その守備はホームの地では相手に攻撃の糸口さえ作らせないという、強い意志が感じられるほどのタイトなプレーだった。

 押し込まれる展開となった鳥栖は、ロングボールから一気の攻撃でゴールを目指すが、プレッシャーを受けるなかでのパスは正確性を欠きビッグチャンスを作れない。

 同じく鹿島も前半は後方からのロングパスで相手ゴールへと迫る。かつての鹿島は守備から攻撃に転じると、ボールを奪取した選手が前線へとドリブルで進出。グラウンダーを主としたスルーパスを繰り出し、その動きに周囲の仲間が呼応してゴールへと迫るスタイルを得意としていた。

 岩政大樹監督がタクトを振るうスタイルは同じカウンターでも、中盤を省略した後方からのロングパスが多用されているが、その攻撃もここにきてリーグ序盤と比較するとチームにフィットしてきているように見えた。

 何よりこのカウンター攻撃が相手にとって脅威となっていたのは、鹿島の選手たちのコンディションの良さによるものだ。一見、力任せの荒っぽい攻撃スタイルだが、鹿島の各選手は夏場の消耗が激しい状況でもコンディションが良好のようで、多少のパスのズレやミスは運動量でカバーしてしまい、攻撃の大きな武器となり試合の主導権を握った。

 対するアウェーの地で劣勢の展開を強いられた鳥栖も黙ってはいなかった。GK朴一圭は鹿島の攻撃を防ぎボールを手にすると、前掛かりとなった相手陣形のスキを突くように素早く味方へと繋いで突破口を開こうとする。

 だが、こうした場面でも鹿島の方が一枚上手で、激しくマークにつき攻撃を許さない。特に樋口は先制点を挙げたことが注目されるところだが、ボールを持った鳥栖の選手に食らいつき、自由にプレーをさせなかった守備面でのチーム貢献は秀逸だった。

 試合開始からフルスロットルで臨んだ鹿島の選手たちは、後半に入っても運動量を落とすことはなかった。それどころかプレーは激しさを増していく。

 劣勢の展開に心を折ることなくチャンスを作った鳥栖に、一時は同点ゴールを奪われたが、後半は前半以上に鹿島のペースで進んでいく。攻撃もロングボール主体のカウンターに加え、相手を運動量で上回り分厚い波状攻撃を展開。ダイナミックなプレーを随所で見せた鹿島のサッカーには敵を圧倒する迫力が漲っていた。

 率直に言って鹿島のチーム戦術としての完成度はそれほど高くない。だが、チーム戦術の劣勢を補う選手たちが見せた荒ぶる魂のこもったプレーに、サポーターたちはさぞかし心を熱く刺激されたのではないだろうか。

(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)



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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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