スタジアム、スタグル、ユニ…Jリーグ大好き英国人、“プレミア以上”と称賛する日本サッカーの文化とは?「英国ならありえない」【インタビュー】

「J.League Journeys」のクリスさん(左)とロロさん【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
「J.League Journeys」のクリスさん(左)とロロさん【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

Jリーグを世界へ発信するサッカーフリークの英国人2人組

 今年で30年周年の節目を迎えたJリーグ。その歴史のなかで、多くの外国人選手がプレーを通じて競技力向上に寄与してきただけでなく、同時にこの国の文化も愛してきた。そこでFOOTBALL ZONEでは「J助っ人×日本文化」と題し特集を展開。今回は視点を変え、“外国人ファン”の目線でJリーグの文化にフォーカスする。「J.League Journeys」として日本サッカーを熱くウォッチし続ける英国人2人組、クリスさんとロロさんにJリーグが世界に誇る文化について訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治)

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 J1からJ3までの全プロカテゴリーだけでなく時に地域リーグまで、スタジアムでの現地観戦を通して日本サッカーの“リアル”を世界へ発信する。この国のサッカーをこよなく愛する関東在住の英国人、クリスとロロが「J.League Journeys」というユニット名で展開する活動だ。

 伝えたい内容は試合の様子だけにあらず。「雰囲気」「食事」「ロケーション(アクセス)」「スタジアム」「体験」、これら5つの項目を10点満点で採点。忖度なしで率直な評価を下す。これまでに20以上ものクラブの本拠地に足を運んだ。

 2人はともにロンドンの出身で、2010年代前半に「JETプログラム」(外国語青年招致事業)で来日した。共通の知人を通して知り合うと、互いがサッカー好きだと分かるや否や意気投合。趣味のサッカー観戦を通して友情を育むうちに、現在の活動のアイデアが生まれた。コロナ禍の影響で動画配信を実際に始められたのは今から2年前。ただ、計画が出来上がっていたのは、そこからさらに数年前まで遡る。原点をクリスはこう振り返る。

「英国にもJリーグを観たいと思っているサッカーファンは結構多くてね。けれども、4~5年前はネット上にコンテンツが充実していなかった」

 ならば、自分たちがJリーグを英国や世界に届けよう。スタジアムの空気感やサポーターのエモーショナルな部分まで。

 ただ英国にもJリーグファンが一定層いるとはいえ、なぜ極東の島国にあるプロサッカーリーグに目が向くのだろう。クリスによると、中田英寿氏や中村俊輔氏など歴代欧州組の活躍により日本サッカーへの注目度が増しただけでなく、ユニフォームが“Jリーグ需要”に一役買っているのだという。

「英国のサッカーフリークたちの間で、1990年代にリリースされたJリーグのレトロなユニフォームは特に人気があるんだ。ユニフォームが人気になると同時に、英国内でのJリーグ自体への関心も高まっていった。実際、Jリーグのユニフォームってユニークだよね。色やエンブレムでクラブ本拠地がどういう町なのか、地域性がよく反映されているんだから」

「殺気立っているイングランドのスタジアムには息子を連れて行けない」

時にファンと一緒に応援しスタジアムのリアルな空気感を伝える【写真提供:J League Journeys】
時にファンと一緒に応援しスタジアムのリアルな空気感を伝える【写真提供:J League Journeys】

 とはいえ、彼らの母国には世界最高峰のプレミアリーグがある。サッカーに対する目も相当に肥えているはずだ。それでもなぜ、何年もフォローし続けられるほどにJリーグに魅了されているのだろう。ロロは「挙げ始めたらきりがない」と前置きしつつ、理由の1つをこう話す。

「Jリーグには日本文化がいい形で反映されていると感じる部分がある。例えば、家族連れに優しい雰囲気があるところ。英国だとサッカーは男性だけの楽しみって感じだからさ。僕には2歳の息子がいるけど、うるさくて殺気立っているイングランドのスタジアムに彼を連れて行けないよ」

 Jリーグを現地観戦し続けるうちに、カテゴリーごとの雰囲気の違いにも気づくようになった。ロロは来日する外国人に対し、J1だけでなくJ2のスタジアムにもぜひ足を運んでほしいとその魅力を力説する。

「J1の試合会場の賑やかさが音楽フェスだとすると、J2はお祭りかな。ファン同士の距離が近く温かい雰囲気があり、“地域社会”をより感じるんだ。そこが好きだね」

 一方で、クリスはJ2やJ3の魅力に“ファンの存在”を挙げる。

「2部や3部に所属するクラブの多くは、本拠地が地方都市にあるからスタジアムの規模は小さくなるかもしれないけど、代わりに集まるファンは“ハードコア”な人たちだと感じる」

日本の“スタグル”の凄さはサービスそのもの

 Jリーグといえば近年、スタジアムグルメ(通称スタグル)がSNSを中心に大きな注目を集めている。その最たる理由はコストパフォーマンスの良さ。料理として高いクオリティーが担保されているのはもちろんのこと、アルコール飲料と併せて購入しても1000円台中盤という価格設定に驚愕する海外のファンは多い。クリスとロロもスタジアムグルメの“コスパ”には「最高」「まさに適正価格!」と脱帽だ。

 実際に2人はこれまで、さまざまなJリーグのスタジアムグルメを食べ歩いてきた。種類の豊富さを称賛しつつ、特に思い出に残った一品は「神戸牛のサンドイッチ」(ヴィッセル神戸/クリス)「自家製『炙り』焼豚丼」(FC町田ゼルビア/ロロ)だそうだ。

 ただ、こうした価格や種類の豊富さ以上に、スタジアムの食における本当の驚きはサービスそのものにあるとクリスは指摘する。

「南葛SC(関東サッカーリーグ1部)の試合も観に行ったことがあるんだけど、Jリーグでないにもかかわらずプロ並みのフードバラエティーがあったことにはびっくりしたね。英国のアマチュアリーグなら絶対にありえないから」

 あらゆる人に開かれた雰囲気とサービスが充実した食。こうした特徴から、クリスは日本のサッカー界では「ファンサービス」が最重要視されている価値観だと分析する。対して、英国では「クラブがより収益化に重きを置いている」とも指摘。そしてロロは母国の歴史を踏まえ、日本独自の価値観が育まれた経緯をこう推察した。

「英国でサッカーは地域が古くから担ってきた重要な文化の一部。そうした考えが深く根付いているからこそ人々は必然的にスタジアムへ足を運ぶし、クラブが観客動員に躍起になる必要がない。ただ日本の場合は、歴史的に見てサッカーが英国ほど人気ではなかったから、なんとかスタジアムに来てもらいたいとクラブがさまざまな施策を行ってきたんだと思う」

 ファンに提供する試合体験かビジネスか――。独自の文化が醸成される背景には、日英両国におけるプロサッカーリーグの運営方法に決定的な違いがあるようだ。

Jリーグ発展への提言

 海外出身者ならではの視点で魅力を感じる一方、Jリーグの課題はどう見つめているのだろう。「Jリーグのさらなる発展に必要な要素」について問うと、クリスはスタジアムが鍵を握ると答えた。

「Jリーグの発展に欠かせない要素はサッカー専用スタジアムだと思う。陸上トラックがあることでサッカー以外の競技にも施設が利用できる点はもちろんいいこと。けれども、ファンがより深くサッカーの本質を理解するためには、専用スタジアムが必要だよ」

 対して、ロロが注目するのは若手日本人選手の海外移籍。クラブはより適切な投資を行えるはずだと提言する。

「僕の考えは、Jリーグクラブが日本人選手の海外移籍にあたり移籍金をもっと求めていいんじゃないかということ。移籍金をより高く得られれば、クラブがチーム力だけでなくリーグのレベルを向上させるための投資に回せるはずさ。Jリーグの競技力アップにマネーも必要不可欠な要素だと思うよ」

 たしかに、Jリーグがアジア屈指のプロサッカーリーグになるためだけでなく、世界でその存在感を発揮するうえで“成長の余地”はまだまだありそうだ。彼らは自分たちのコンテンツを通じて、愛ある提言も続けてくれることだろう。

 今後は北海道や沖縄といった遠方へと足を延ばすだけでなく、「WEリーグ(女子プロサッカーリーグ)や日本代表の試合までカバーの範囲を広げたい」と話すクリスとロロ。Jリーグだけに留まらない日本サッカー界の魅力を発信する2人の“ジャーニー”はこれからも続く。

(文中敬称略)

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