Jリーグ審判レベルアップのヒントに? 英国人レフェリーに学ぶジャッジ考察…元主審・家本氏が持論「圧倒的に違う」

審判交流プログラムで来日中のアンドリュー・マドレイ氏【写真:Getty Images】
審判交流プログラムで来日中のアンドリュー・マドレイ氏【写真:Getty Images】

【専門家の目|家本政明】Jリーグ、国際親善試合で3ゲームを担当したマドレイ主審のジャッジを参考に考察

 イギリス出身のアンドリュー・マドレイ主審は、英国との交流プログラムで来日している。J1リーグ2試合、国際親善試合の日本代表対エルサルバドル代表戦(6月15日/6-0)を担当したなか、元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏がJリーグレフェリーとの違いについて持論を展開した。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部・金子拳也)

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 普段プレミアリーグ(英1部)で笛を吹くマドレイ主審は、JFAとイングランドにおける審判員の統括組織(PGMOL/Professional Game Match Officials Limited)の審判交流プログラムの一環で来日。J1リーグ第16節の浦和レッズ対鹿島アントラーズ(0-0)、第17節のガンバ大阪対FC東京(3-1)を担当し、選手たちからジャッジに称賛の声が上がっていた。

 そうしたなか、6月15日に行われた国際親善試合の日本対エルサルバドルでも試合を担当。前半早々に退場劇が起こる異例の展開だったが、日本優位なゲームを見事にレフェリーとして90分間仕事を完遂した。

 ストレスの少ない試合を展開したマドレイ主審。一方でJリーグでは今シーズン、さまざまな試合で判定について議論が起こる場面が散見し、家本氏も「振れ幅が最近大きくなりすぎている」とジャッジ基準のブレに警鐘を鳴らしていた。現状のJリーグレフェリーと、マドレイ主審の違いはどこにあるのだろうか。

 家本氏は「もとより、異国の人(レフェリー)に対して、人間は躊躇することが多少なりともある」と日本での試合に対し外国人レフェリーが裁く影響も少なからずあることを前置きしつつ、「判定の安定感もあるが、コミュニケーション力を含めたゲームマネジメント能力は秀逸。そこが今のJリーグのレフェリーとの圧倒的な違い」と、日本対エルサルバドルでもマドレイ主審が示した2点を挙げた。

 そのうえで家本氏は、「最近日本人レフェリーが、選手と良好なコミュニケーションを取っている場面が少なくなったように感じる」と苦言を呈している。

「威圧的というか攻撃的というか……。無視する場面もよく見る。なにが起きているのか分からないが、これまであれだけ選手たちとコミュニケーションを取ってより良い試合を“協創”しようという姿勢が見られたのに、今はそれが減って昔のように対立しているようなシーンをよく見る」

マドレイ主審は「“落とし所”を見つけるのが抜群に上手いレフェリーだった」

 現状のJリーグの判定に不安を吐露したうえで家本氏は「(マドレイ主審は)変な違和感や対立を生まないから選手もサポーター・ファンもフットボールに集中できる。いくら正しい判定をしても、選手の競技規則の理解が足りなかったり、スタジアムの雰囲気として競技規則として正しくない方が“正しい”という空気感が生まれる時もある。そういう時に、レフェリーが選手やスタジアムでの“正しさ”をどれだけ理解するかが重要」と説く。

「マドレイ主審は、基本的な判定基準の安定感に加えてその“落とし所”を見つけるのが抜群に上手いレフェリーだった」と、その能力を称えた家本氏。エルサルバドル戦でも安定したマネジメントを見せた英国人レフェリーの所作に、日本審判界レベルアップのヒントがあるのかもしれない。

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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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