日本代表MF川辺駿、「すべてが凄い」と絶賛の選手は? 理想的プレーに感嘆「えぐい。あの歳で…」【現地発】
【インタビュー】スイスで放つ存在感「『また日本人を獲ろう』となって嬉しかった」
6月シリーズ(15日エルサルバドル代表戦、20日ペルー代表戦)の日本代表メンバーに選出されたMF川辺駿は、今季スイス1部グラスホッパーでリーグ戦9得点8アシストの結果を残した。そんな川辺が「すべてが凄い」と絶賛して止まない選手がいる。欧州での飛躍を目指すなか、「あらゆる部分でお手本」と明かした。(取材・文=中野吉之伴/全3回の3回目)
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グラスホッパー在籍2年目の川辺はチューリッヒでの生活を楽しんでいる。郊外にある静かで落ち着いた練習場でサッカーに集中することができ、中心街へも車移動ですぐの距離。国際空港まで車で約10分と近く、オフにヨーロッパの街を観光するためのアクセスの良さも抜群だ。
「楽しいですよ。最初の半年は1人だったんですけど、(瀬古)歩夢が来て、(原)輝綺が来て。日本人が1人なのと、3人でコミュニケーションを取れるのは、いい意味でやっぱり全然違うと思います。ただこれに慣れちゃうのは良くないと思う。常に誰か日本人がいるチームに行けるわけじゃないので。そこは気をつけてます。でも自分がきっかけとなってというか、僕がこのチームに来て自分の力を出せて、クラブが『また日本人を獲ろう』となってくれたのはすごく嬉しかったです」
川辺を獲得し、その後に瀬古歩夢の獲得を決断した前SD(スポーティング・ダイレクター)のセイ・オロフィンジャナ氏は、トレーニングやチームに向き合う川辺の姿勢にポジティブな印象を受けたことを明かしてくれたことがあった。
「とてもサッカーに真剣に向き合ってくれている。日本人選手それぞれのキャラクターは素晴らしいよ。川辺は移籍当初、Jリーグから休みなしでスイスに来たわけだけど、何1つ文句も言わずにプレーをしている。順応スピードも早いしね。彼らが溶け込みやすいようにと、僕らもいろいろとケアしてきた。チームには迎え入れ、仲間として受け入れようという雰囲気がある。英語でコミュニケーションが取れるのも大きいと思う」(前グラスホッパーSDオロフィンジャナ氏)
「誰でもいいですか? むちゃくちゃ好きなんです」と挙げた選手は…
ピッチ外の川辺は物腰が柔らかく、誰にでも優しく接すると、スタッフからの評判もすこぶるいい。グラスホッパーでは夏に地元の子供たちを対象に開かれるサッカーキャンプがあり、クラブハウスにはその時の様子が納められた写真があった。写真の中の川辺は屈託のない笑顔で、子供たちと接している。
そんな川辺が理想とする選手とは、一体誰なのだろうか。
「誰でもいいですか? 俺はもうモドリッチがむちゃくちゃ好きなんです」
クロアチア代表キャプテンのMFルカ・モドリッチ。2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)では母国を3位へと導き、37歳となった今も世界最高峰のクラブであるレアル・マドリードで主力だ。昨季はUEFAチャンピオンズリーグ(CL)で優勝し、今季も準決勝まで進出した。
「すごいレベルなんですけど、あらゆる部分でお手本というか。身体はそんなに大きくないですが、プレーの1つ1つのクオリティーが高いのはもちろん、賢さという部分でもすごくお手本となる選手なんです。あと、あれだけの選手でもすごいひたむきなプレーをするっていうのがすごく好きで。自分も真似する部分があり、勉強してます」
苦しい時にチームを助けてくれる選手。どれだけプレッシャーを受ける局面でも冷静に状況を把握して、最適な解決策を見つけられる選手。そしてチームのためにどんな時でも懸命に走り、身体を張り、どんな試合でも全力でプレーをする選手。頼りにならないわけがない。
「もうえぐいです(笑)。あの歳で、身体のキレもそうだし、一瞬の判断力もそうだし、もうすべてが凄い。チャンスを作れてゴールも決められて、守備もする。ああいうプレーがやりたいですね」
現在の川辺は、プレミアリーグのウォルバーハンプトンからレンタル移籍でグラスホッパーに在籍している状況だ。ここからどんな未来が待っているのだろうか。
「そうですね。もちろんウルブス(ウォルバーハンプトン)で、という可能性はありますし、ほかのチームから話もあるかもしれません。どうなるんでしょうね。ただ自分の中ではフラットというか。これだけ結果を出したという自信もあります。どこに行ってもやれるという思いはありますね」
欧州で感じた世界の広がり「いろんな国に行ってみたいと感じるようになった」
世界は広い。サッカーも広い。いろんな国に、いろんなサッカーがある。ヨーロッパに来て、そうした世界の広がりを間近に感じられるようになったと川辺は言う。
「いろんな国に行ってみたいなって、そう感じるようにもなりましたね。家でプレミアリーグやブンデスリーガ、ラ・リーガとか、あとはフランスもイタリアもですけど、オンタイムでどこの試合でも見られる。試合を見てるだけで、リーグごとにすごい違うので、考え方の幅がすごい広がるのを感じます。ヨーロッパカップ戦も出てみたいな。もちろん試合数が多くなって、タフなシーズンになると思いますけど、それでもやっぱりヨーロッパリーグだったり、チャンピオンズリーグっていう大きな舞台は経験したいですね」
そう言って優しく笑った。川辺の道はどこへつながっていくのだろう。まだ27歳。可能性はどこまでも広がっていく。
[プロフィール]
川辺駿(かわべ・はやお)/1995年9月8日生まれ、広島県出身。広島高陽FC―サンフレッチェ広島Jrユース―サンフレッチェ広島ユース―サンフレッチェ広島―ジュビロ磐田―サンフレッチェ広島―グラスホッパー(スイス)。2014年に広島のトップチームに昇格。15年に磐田へ期限付き移籍して頭角を現すと、18年から広島へ復帰して主力としてフル稼働し、21年7月からグラスホッパーへ移籍。22年1月、ウォルバーハンプトンへ3年半契約で完全加入が決まり、同シーズンはグラスホッパーへ期限付き移籍の形を取り引き続きプレー。22-23シーズンもグラスホッパーに所属し、リーグ戦33試合9ゴール8アシスト。21年3月25日の韓国戦でA代表デビューを飾り、同年6月7日のタジキスタン戦で代表初ゴールをマーク。23年6月シリーズの日本代表メンバーに招集された。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。