浦和対広島、明暗分けた外国人監督の采配 カメラマンが見たスコルジャ&スキッベ両監督の緻密な戦略

浦和のマチェイ・スコルジャ監督(左)と広島のミヒャエル・スキッベ監督(右)【写真:Getty Images】
浦和のマチェイ・スコルジャ監督(左)と広島のミヒャエル・スキッベ監督(右)【写真:Getty Images】

【カメラマンの目】先手を打って出た広島監督とそれに対抗した浦和監督の采配にフォーカス

 それにしてもサッカーの試合というのは、90分間でさまざまな表情を見せるものだ。浦和レッズがAFCチャンピオンズリーグ決勝を戦ったため、未消化となっていたJ1リーグ第11節のサンフレッチェ広島戦。ここまでリーグで好位置に付ける両チームにとっては、上位を追随するためにも負けられない一戦だった。

 浦和、広島ともに戦い方のベースは、サイド攻撃から相手のゴールを攻略するスタイルとなっているが、敵の最深部を突くデザインはそれぞれ異なっていた。

 浦和は関根貴大とダヴィド・モーベルグの両サイドに張る選手がドリブルを多用し、ボールを線で相手陣内へと運び、ゴール中央に走り込むFWに対して点で合わせるようにラストパスを供給する。この線と点を織り交ぜたスタイルがベースとなっている。

 対して広島はサイドの選手がボールを受けると、ドリブルよりもパスを選択するケースが多い。敵陣から見てまだ浅い位置からでもゴール前へパスを送っていたように、点から点へとボールをつなぐスタイルでチャンスを作っていた。

 広島の選手は実に球離れが早くチーム全体にもスピード感があり、ゴール裏からカメラのファインダーを通して見る試合の主導権は、アウェーチームが握っているように見えた。それでも前半はお互いに攻撃への意識より、守備への対応を優先していたようで、相手の長所を消し合う激しいマークの応酬で、両チームともに全体的には意図した戦い方を存分に発揮することはできていなかった。

 この状況で先に動いたのは広島を率いるミヒャエル・スキッベだった。浦和のマークの厳しさは特にゴールに近い最前線の選手に向けられていたため、FWナッシム・ベン・カリファは本来の力を発揮できずに前半を終えていた。ここでスキッベは後半最初からカリファに代えてドウグラス・ヴィエイラを投入する。

 ゴールを目指す場合、ある一定の限られた時間より、試合すべての90分間を使ったほうが当然、確率は上がる。だが、相手が強敵ともなれば、常に思いどおりに試合を運べるとは限らない。

 確かに試合のペースを握っていたのは広島だった。だが、広島の選手たちが攻撃へのアプローチに対して統一した意識を持っていても、長所を消し合う戦いとなっては決定的な場面を作りづらい流れで試合は進んでいた。

 その状況を打破すべく広島は、後半開始から猛然と攻撃の姿勢を強めた。ここが勝負どころだと判断したようだった。

広島の術中にはまらなかった浦和、スコルジャ監督の強気采配が奏功

 圧倒的な広島の攻撃の勢いを止めようと、浦和は伊藤敦樹などがファウルも辞さない激しいプレーで対応してきたが、スイッチの入った攻撃は断ち切られることなく、勢いそのままに後半5分に森島司がゴールをゲットする。

 広島が流れるような力強い攻撃を仕掛けたのは、後半開始からほんの10分ほどだった。すべての時間を支配するには手強い浦和に対して勝負どころを見極め、その短い時間に攻撃の意識を集中させて見事に得点を挙げたのだから、スキッベ監督の狙いが見事に的中したことになる。

 しかし、浦和を指揮するマチェイ・スコルジャ監督も黙って広島の術中にはまるような男ではなかった。ゴールを許した7分後に一気に3選手を交代し勝負に出る。

 スコルジャ監督は先制を許したということもあるが、広島のFWがそうであったように、タイトな守備の前に存在感を発揮できていなかったFWホセ・カンテらに代わって興梠慎三、ブライアン・リンセン、大久保智明とより攻撃的な選手をピッチに送り出す。

 中盤の岩尾憲も外し、攻守のバランスを崩してでも前掛かりな布陣に変更した。結果は選手交代から5分後の後半27分に酒井宏樹の同点ゴールへと結び付く。

 ここから試合は相手の長所を消し合っていた前半とは打って変わって、攻め合いの様相を呈していく。同じ90分間のなかで前半とは正反対となる試合展開へと変化したのだった。お互いに攻撃の姿勢を強めるなか、流れはやはり同点ゴールを挙げた浦和側へと傾いていく。

 押し込まれる展開に広島のスキッペ監督は、試合時間も残り少なくなった後半44分にチームを落ち着かせようと、豊富な経験を持つ柴﨑晃誠をピッチに送り出す。だが、浦和はアディショナルタイムに中盤で攻守に渡って奮闘していた伊藤が劇的なゴールを挙げて試合に決着を付けた。

 試合後、互いの健闘を称え握手を交わす両監督。勝敗を競う試合は、それこそ指揮官の思いどおりにいかないことなど限りなくあることだろう。試合に勝つことに越したことはないか、知略を駆使し、勝利を目指す自らの考えを選手たちに託しピッチで表現する。これが指揮官の醍醐味だ。

 敵将に「やるな」と思わせ、相手の采配を読んで、さらにその上をいく戦い方で勝利を目指す。勝敗は最後に明暗を分けたが、采配を振るった2人の指揮官にとって、鮮やかな逆転勝利を演出したスコルジャ監督はもちろん、敗れたスキッペ監督も監督として持てる力を存分に発揮した試合となったのではないだろうか。

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徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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