美しく醜悪な欧州ビッグクラブ 加速する「レアル化」…恐ろしく強いチームを生み出す異常な背景

マンCに敗れCLベスト4敗退のレアル・マドリー【写真:ロイター】
マンCに敗れCLベスト4敗退のレアル・マドリー【写真:ロイター】

【識者コラム】レアルに圧勝したシティ、際立ったオールマイティーぶり

 UEFAチャンピオンズリーグ(CL)準決勝、マンチェスター・シティがレアル・マドリーを下して決勝進出。2試合合計5-1の圧勝だった。

 1-1で迎えたホームでの第2戦、シティは終始レアルを圧倒している。「偽センターバック(CB)」としてボランチ化するCBストーンズはモドリッチが見張っていたものの、レアルはFWの守備やボランチの押し上げが足りず、中盤の数的優位を活かしたシティのパスワークに撤退するしかなかった。

 ただ、こういう展開もレアルの手の内にはある。これまでの9シーズンで5回優勝しているのも、どういう展開にも対応できる全方位的な体質によるものだった。しかし、シティには通用しなかった。カウンターの切り札になるヴィニシウスが対面のウォーカーに抑え込まれ、逆に左サイドバック(SB)に起用されているカマビンガがベルナルド・シルバを止められない。劣勢の流れでも勘所を個の力で制して勝つレアルの戦い方が封じられてしまい、総合力で上回るシティの一方的な攻勢となっていた。

 ハーランドを加えてスケールアップした今季のシティだが、準々決勝のバイエルン・ミュンヘンとの試合では撤退防御もやった。

 今季のCLで表れている傾向として、ビッグクラブの「レアル化」がある。シティ、レアル、バイエルン、パリ・サンジェルマンなどCL上位を占めるビッグクラブはボール保持力に優れた攻撃的なスタイルだが、試合の流れや相手に応じては撤退しての堅守速攻で戦うことも増えている。かつてそれができるのはレアルぐらいで、保持や速攻などに特化した対戦相手のリズムを崩す「後出しジャンケン」のような戦い方で勝利を重ねてきたのだが、現在はどの強豪クラブもそうなりつつある。

 すべてのポジションにトップクラスの選手を揃えていなければ、オールマイティーは中途半端なものになってしまうが、そうした豪華な陣容のクラブが増えているのだ。ボール保持+ハイプレス、あるいは撤退守備+速攻のように、2局面の組み合わせに特化して押し切る戦い方では難しくなっていて、時と場合に応じて本来の戦い方から変化できるチームが有利になっている。

 こうした「レアル化」のなか、本家のレアルに圧勝したシティは決め手となる個の勝負を制していた。

シティが抱える大きな問題、最悪の場合プレミアリーグから追放の可能性も

 シティは念願のCL優勝へ一直線。フィールド上は好調そのものだが、フィールド外で重大な問題を抱えている。100を超えると言われているファイナンシャル・フェア・プレー(FFP)違反だ。もし、違反が確定すればシティはプレミアリーグからの降格、最悪の場合追放の可能性もあるという。

 財政健全化のためのFFPではあるが、もはや形骸化しているという指摘もあり、ビッグクラブが皆これを遵守しているかはかなり怪しい。FFP施行後に経営破綻したクラブもあり、制度そのものが機能していないかもしれない。

 ただ、あまりにも莫大な補強費用は異常ではあるだろう。それがオールマイティーで恐ろしく強く、現代サッカーの頂点を押し上げるチームを生み出す背景にある。美しい昇華であるとともにグロテスクでもあるかもしれない。

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(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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