海外絶賛の日本人アタッカー、日本代表FW中村敬斗が明かす“新たなチャレンジ”とは?【現地発コラム】

LASKリンツの中村敬斗(右)【写真:Getty Images】
LASKリンツの中村敬斗(右)【写真:Getty Images】

オーストリア1部で13得点7アシストの活躍を見せるLASKリンツFW中村敬斗

 今季オーストリア1部で日本代表FW中村敬斗は13得点7アシストをマーク。3位につけているチームにおいて貴重な存在となっている。

 地元メディアは「違いを生み出すシューティングスター」と称賛し、ディートマー・キューバウアー監督は「彼は我々の下で物凄く優れたサッカーを見せている。非常に優れた成長を遂げている」と、その活躍に目を細める。もはやチーム内だけではなく、オーストリアサッカー界全体における注目株の1人なのだ。

 チームの調子もかなり良く、レギュラーシーズンが終わった後の上位6チームによるマイスターグループでは第29節でザルツブルクに敗れるまで負けなし(3勝3分)。23年に入ってからだと、リーグ戦でザルツブルク以外には負けていない。

「今年に入ってほぼ負けてなかったし、僕個人としても結構点を入れていました」(中村)

 第29節ザルツブルク戦後にそう振り返るように、チームとしても個人としても手応えを感じていた。だが、ただ活躍すればするほど、相手チームが警戒を強めるのは自明の理。入念に分析し、そのプレーを制限し、ゴールに迫る可能性を下げるためにさまざまな手を打ってくる。実際マークはよりタイトになるし、複数にマークされることも普通にある。プレーするスペースもどんどん狭くなる。

 そうしたことも影響してか、中村は直近5試合でゴールがない。

 第29節で対戦した首位ザルツブルク戦では0-1で敗れたとはいえ、さすがと思わせるプレーを随所に見せていたし、シュートシーンはいくつもあった。ただ、相手GKを脅かすほどのシーンはなかった。動きもプレーも悪くないのに、ゴールが遠い。そのあたりのジレンマは中村も感じている。

「(マークが厳しいなか)ワンチャンス決めたいと思ってプレーしているんですけど、そのワンチャンスが最近5試合出なかった。難しいですね」

新たな得点パターンを試す中村「クロスに対しての飛び込みとか」

 結果を出すと期待が付いてくる。それは選手にとって1つの勲章のようなものだ。そしてファンは絶好調時のパフォーマンスと比較して、選手を見ることが多い。点を取っている選手が取れなくなると、とたんに「どうしたんだろう?」とか、「不調に陥ったんじゃないか?」と騒がれてしまう。

 中村のポジションはセンターフォワード(CF)ではない。ゴールを決める以外にもやるべきタスクが非常に多く、多岐にわたっていることを理解しなければならない。

 左サイドから味方のためにチャンスメイクをし、守備にも奔走し、何度も上下動を繰り返し、チームのためにやるべきことをやったうえで、好機を見逃さずにシュートゾーンへと入りこんでシュートを狙うポジションだ。そうした条件の中でここまでゴールとアシストを積み重ねてきたことは特筆に値する。

 そして今、また新たなチャレンジと向き合っていることを明かした中村。得点パターンを増やせないかといろいろ試しているという。

「クロスに対しての飛び込みとか。今日も前半最初のほうに、ヘディングシュートのシーンがありました。シュートはすごい前に飛ばしちゃいましたけど、ああいうところに飛び込んでいくようになってますし、どんどんヘディングも狙っています。得点の形を増やしたいなと思っています」

「あと一歩」と自己分析の中村、課題を見つけてチャレンジする貪欲な姿勢

 後半途中にも右サイドからのグラウンダーのクロスに猛然と飛び込んで、あと一歩で相手DFより先にボールに触れてシュートに持ち込めそうなシーンがあった。

「あと一歩でしたね、本当にフリーだったので。ボール1個分のずれとか、そういうちょっとしたことなんですけどね。それでゴールが入ったりするんですけど、そういうのが最近なかなか。あと一歩っていうとこで点が入らない試合が続いてるんで。あと3試合なんでね、やれることやっていきたいですね」

 自分で課題を受け止めて、現状を分析して、チャレンジを見つけて、実践して、それを基にまた自分のプレーを整理していく。そうやって貪欲に成長と向き合う姿勢が頼もしいではないか。

 コンディションは良好で、動きの質自体は高い。本人が口にするように、あと一歩、あと少しのところがまた噛み合うようになれば、ゴールやアシストという数字は付いてくるはずだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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