39歳長谷部誠、なぜ欧州最高峰で活躍できるのか 現地分析官も驚愕の凄さ「どうやった」「相手も“なんで?”と」【現地発コラム】

フランクフルトの長谷部誠【写真:Getty Images】
フランクフルトの長谷部誠【写真:Getty Images】

今季リーグ戦やCLでも貢献するフランクフルト長谷部、誰もが認める特別な存在

 ブンデスリーガ第28節で長谷部誠と鎌田大地が所属するフランクフルトは、板倉滉を擁するボルシアMGをホームに迎えた。ボルシアMGが鋭いカウンターからヨナス・ホフマンが先制ゴールを挙げ、後半猛反撃に出たフランクフルトがランダル・コロ・ムアニのゴールで同点に追い付いたこの試合(1-1)で、長谷部は3バックのセンターでフル出場を飾っている。

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 39歳の長谷部がブンデスリーガでプレーしている事実に、もはや誰も驚かなくなっている。彼は特別な存在と誰もが認めているのだ。試合後にはボルシアMGのベテランMFラース・シュティンドルとしばらく言葉を交わす姿が見られ、「彼とはライセンス(取得講習)を一緒にやったんで。そういう関係性で。『いつまでやるんだ』みたいな(苦笑)。いつもそんな感じで言ってきますけどね」(長谷部)。

 今季リーグでは第28節終了時で13試合に出場し、フル出場が8試合。準決勝まで進出しているドイツカップ(DEBカップ)は3試合に出場し2試合でフル出場。そして世界最高峰のUEFAチャンピオンズリーグ(CL)では4試合に出場し2試合でフル出場という数字を残している。

 豊富な経験、高いゲームインテリジェンス、最高レベルの技術と評価されるが、実際に「どのような局面でどんな決断をしてどんなプレーをするから凄いのか」という点から、「なぜ長谷部が活躍できるのか」というのを分析されることもあった。

 取り上げられたシーンの1つはこうだ。

 自陣からハーフウェーラインにかけて右サイド寄りでパスを受けた長谷部に相手FWがプレスをかけようとしている。右サイドにはパスを出せる位置関係だが、相手からマークを受けている味方選手がいる一方、前のスペースには前線の選手が相手を引き連れながら降りてきており、ここにパスを通すことはできるが、そこからのパスコースはないという状況だ。左斜め前には、中盤センターへのパスコースを切る位置に相手のトップ下選手がポジショニングを取っている。ドリブルで進めるほどのスペースはない。

 フランクフルトの育成で指導者歴もあるトーマス・ブロイヒ氏が分析を担当し、次のように語っていた。

「この状況を見る限り、長谷部にできることはそう多くはない。味方にパスをあててリターンパスをもらって作り直すか、味方に預けて個人技で状況打開してもらうか、あるいはターンをしてGKにバックパスをするかだ。僕だったらその選択肢しかない。でも長谷部は全く違う選択をしたんだ」

分析官も長谷部の好プレーに興奮「パスコースがなかったところにパスを通したんだ」

 分析を担当したブロイヒ氏は、そのシーンをさらに先へ進ませる。長谷部はボールを少し縦方向に押し出してドリブルへ入るそぶりを見せたかと思ったら、次の瞬間、身体は前を向いたまま左斜め前の味方選手へパスを通していたのだ。

 ブロイヒ氏が興奮気味に話し出す。

「パスコースがなかったところに長谷部はパスを通したんだ。どうやってやったのか。ドリブルでボールを押し出した時に、センターでパスコースを切っていた選手の重心がほんの少しだけボールサイドに移ったんだ。その瞬間を見逃さずに、その選手の脇を抜くパスを通したんだ。相手選手の反応を見てほしい。『なんでここにパスを通されたんだ?』と驚いた様子を見せている。完全にパスコースを切っていたはずなのにそこを通されたんだから、その気持ちはよく分かる。凄いのは、こうしたプレーを長谷部は本当に自然体で繰り出してしまうということなんだ」

 ボールを持った時の落ち着き、展開力の豊富さ、判断力の確かさ、そして実践するスキルレベルが極めて高水準で安定している。しかも、こうしたプレーをピッチ上で最後尾にいる選手がするのだから、相手からしたらたまらない。長谷部がピッチにいる時といない時とでは、フランクフルトのビルドアップ能力が大きく違うのには確かな理由があるのだ。

 とはいえ、リーグでは7試合未勝利とペースダウン。上手く勝ち点を積み重ねることができないでいる。長谷部はそんなチーム状況について次のように話していた。

「調子が上がらないというよりはやっぱり、今日なんかも多くのチャンス作って十分勝ちに値するゲーム内容だと思います。ただここ最近はこういうゲームが全然勝てていない」

 いい流れで試合を進めながら思わぬミスから失点してしまう。ビッグチャンスを作り出しながら最後のところでゴールに嫌われてしまう。そういう時には気持ちがうしろ向きになってしまいがちだが、長谷部はそこをきっぱりと否定した。

「(チームとして気持ちが)守備的にというのは全く感じないですね。やっぱり自分たちがボール保持して、どう攻撃するかというところにチームとしてすごくフォーカスを当てている」

 内容的には悪くないからそれを続けていくだけと冷静に語る長谷部の話を聞いていると、すぐまたチームは勝ち続けるのではないかと思わされてしまう。そう信じさせるだけの力が長谷部の言葉と振る舞いにはある。目標のUEFAヨーロッパリーグ(EL)圏は十分に射程距離だ。

 リーグは残り7試合、そしてドイツカップでは準決勝まで残っている。果たしてここからどんなシナリオが待っているのだろうか。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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