まるで高校選手権のようなJ1リーグ下位攻防 理想と現実の乖離で漂う“崖っぷち感”…熱量が冷静さを凌駕した

鈴木優磨と古賀太陽がマッチアップ【写真:Getty Images】
鈴木優磨と古賀太陽がマッチアップ【写真:Getty Images】

【識者コラム】苦戦する柏と鹿島の一戦、両軍が目指すスタイルとはかけ離れたサッカー

 柏(柏レイソル対鹿島アントラーズ/1-0)では、まるで高校選手権のような攻防が繰り広げられた。個々の選手たちはハードワークをいとわず、局面では精一杯身体を張る。一方でどちらもリスクを避け、急いでロングフィードを繰り出し、サイドからは早めのクロスを送り込んだ。

 もちろん両指揮官が目指すスタイルと現実のピッチ上の攻防は、だいぶかけ離れていたようだ。

 昨年8月から遠ざかっていた勝利をなんとか手繰り寄せた柏レイソルのネルシーニョ監督は語った。

「両者にとって重要な試合だった。鹿島は守備でハードワークができて、奪ってから縦に速い攻撃が特徴のチーム。それに対しこちらは、奪ってから攻撃を急ぎすぎてパスミスが目立ち、なかなか攻撃のリズムを作れなかった」

 実際鹿島アントラーズの縦に速い攻撃の威力は追いかける展開の後半に入ると一層際立ち、個々の質の高さや戦力の分厚さは証明できていた。しかし皮肉にもゲームを通して最もゴールを脅かし続けたのは、両センターバックを前線に上げパワープレーに出た終了間際の時間帯だった。結局1点が遠く3連敗を喫した鹿島の岩政大樹監督は、躊躇なくチームのパフォーマンスに赤点をつけた。

「結果も内容も良くなかった。今シーズンでも一番悪かった」

 とりわけ前半は、積み上げてきたスタイルを表現する努力さえ不十分だと感じられたという。

「今年目指してきたのは、相手に掴まらない、読まれない流動的なサッカーです。ところが前半は、それをやろうともしていないように見えた。前節までは勝ち点は失っても、やろうとしていることからは外れていなかったから積み重ねができて前進はしていた。でもこの試合は違った」

ネルシーニョ監督「ただの1勝にしない」 足並みが揃えばやがて「自信」が備わっていく

 どちらも目指す順位と現実が乖離していた。ともに崖っぷちに近く、おそらく重圧は試合を重ねるごとに増していた。焦燥も含めた熱量が冷静さを凌駕するのは必然だったのかもしれない。

 特に柏の最大の武器は最前線にある。最前線に長身で空中戦に確実な勝算を見込めるフロートと、裏抜けが得意な得点源の細谷真大を擁していれば、危機的な状況も後押しして2トップへの配球を急ぎたくなるのも自然な流れだったに違いない。

 建て直し策を問われた鹿島の岩政監督が漏らした。

「良い試合をしても勝ち点を失っていくと沈んでいく。それはよくある話。とにかく分析をして、どんなアプローチをしていくかを考えます」

 序盤の7試合を終えて鹿島は14位(勝ち点7)。柏は17位(同5)ながら最下位の横浜FCには勝ち点3の差をつけた。期待値から脱線し危機に直面した両者の心理状態を象徴するルーレットのような試合になったが、当然切羽詰まった状況では結果こそが最高の良薬になる。

「たかが1勝。しかしこれをただの1勝にしないために、今まで以上に自分たちのやってきたことを信じて継続していく」(ネルシーニョ監督)

 指針がぶれず全員が信じて足並みを揃えていければ、チームのメンタルも「熱気」や「焦燥」から「冷静」へとバランスを整え、やがて「自信」が備わっていく。それを知るからか、柏のサポーターたちは、試合後の監督会見を終えてもなお凱歌に酔いしれていた。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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