世代交代を図るドイツ代表、若手の積極招集で「大事なベース作り」着々 指揮官も「ポジティブ」と高評価【現地発コラム】
3月シリーズで若手を招集したドイツ代表「選手のプールを広くしておきたい」
「代表チームに関わってくるべき選手のプールを広くしておきたい」
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そう語ったドイツ代表監督ハンス=ディーター・フリックは、3月の代表シリーズでケビン・シャーデ(ブレントフォード)やメルギム・ベリシャ(アウクスブルク)、フェリックス・ヌメチャ(ボルフスブルク)、マリック・チャウ(ACミラン)、ヨシュア・バグノマン(シュツットガルト)といったU-21ドイツ代表、元U-21ドイツ代表組5選手を初招集。またボルシア・ドルトムントでレギュラーとして活躍中のマリウス・ヴォルフも呼ばれた。こちらは27歳での初代表となる。
今回アントニオ・リュディガー(レアル・マドリード)、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)、トーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)といった選手を招集せず、若手に多く声をかけたのには大きな理由がある。
ドイツサッカー協会はこれまで以上にフル代表とU-21代表とのつながりを深くすることに注力している。代表発表が行われた記者会見では、フリック監督や新しく代表チームダイレクターに就任したルディ・フェラーだけではなく、U-21ドイツ代表監督アントニオ・ディサルボも同席。前U-21代表監督シュテファン・クンツ時代もフル代表監督とのコミュニケーションはあったものの、それをさらに密なものにしようとしている。
カタール・ワールドカップ(W杯)グループリーグ敗退を受けたドイツ代表にとって、直後の国際Aマッチとなれば主力を可能な限り揃え、これからの方向性を打ち出すことが大事なのは間違いない。だが、同時に将来性のある若手をどのようにA代表へ上げるかを考慮することも大切だ。
ドイツのA代表とU-21代表が隣のピッチで練習 夕食も一緒に取るなど積極的に交流
6月の代表週間ではU-21欧州選手権が開催され、そちらに可能な限りの主力選手を送りたいという意図があるため、この3月の代表シリーズのうちに招集しておくことが必要だった。6月後の代表戦になって初めて若手を上げるのでは遅すぎるという見識。フリック監督は、ペルー戦(3月25日/2-0)、ベルギー戦(3月28日/2-3)を終えたあと、U-21代表との共同作業の大切さを改めて強調した。
「夏にはU-21欧州選手権もある。トーニ(ディサルボ)と話をして、最適な答えを探すつもりだ。我々にとっては今回の招集で若手選手が代表選手と知り合い、代表チームに入ってくることが大事だった。ベルギー戦の結果・内容は良くなかったとはいえ、クオリティーがある、ポテンシャルを持った選手たちだというのを正しく認識することができた。所属クラブと密に連絡を取りながら、彼らの成長をサポートしていきたいんだ。彼らからはピッチ内外でポジティブなエネルギーを感じた。トレーニングでとてもいい動きを見せてくれた。おかげでとてもハイ・インテンシティーで、集中した取り組みができた」
代表チームの新ダイレクター・フェラーも「これからのドイツ代表における大事なベース」と、U-21代表との共同作業がこれからのドイツサッカー界において、極めて大事なものになると話している。
実際に3月の代表シリーズでは、フル代表とU-21代表が隣のピッチでトレーニングを行い、夕食も一緒に取り、互いの垣根をなくして、選手・スタッフ・関係者が自然に交流を持てる機会を作り出そうとしている。これは1回限りではなく、今後も定期的に行われる恒例行事となる見込みだ。フランクフルトにドイツサッカー協会の新しい拠点、DFBアカデミーが完成したことで、それぞれの代表同士が交流する機会を作りやすくなっているのも大きい。
「一緒の道を進んでいるという気持ちをそれぞれに持ってもらいたい」(フェラー新ダイレクター)
人間性に優れ、コミュニケーション能力が高く、同時に厳しい批判をすることもできるフェラーは、フル代表とU-21代表の橋渡し役として大事な存在となっている。U-21代表とU-22日本代表との一戦(3月24日/2-2)には、フリック監督やフェラーも観戦に訪れ、ディサルボU-21ドイツ監督と意見交換を交わしていた。
U-21代表→A代表の流れを継続的に作り出す狙い
U-22日本代表との親善試合は多くの主力が不在だったが、23年夏開催のU-21欧州選手権では「可能な限りベストな陣容で臨めるようにしたい」とフリック監督は明言している。
今回フル代表に呼ばれていたシャーデ、ヌメチャ、ティアウ、バグノマンのみならず、負傷離脱していたユスファ・ムココ(ドルトムント)、カリム・アデイェミ(ドルトムント)、アーメル・ベラ=コチャプ(サウサンプトン)らもメンバーに名前を連ねそうだ。
フル代表の優先順位が最も高いというのはどの国でも一緒だろう。だが、代表の将来も考慮したチーム作りを考えると、必ずしもそれだけが最適な答えになるわけではない。資質ある選手を早い段階でフル代表へ上げることも大切だが、国際舞台でタイトルを目指して試合ができる機会がもたらす経験も極めて重要なのは間違いない。
ドイツ代表が14年のブラジルW杯で優勝を果たした時のベースは、マヌエル・ノイアー、マッツ・フンメルス、メスト・エジル、サミ・ケディラ、ベネディクト・ヘーベデス、ジェローム・ボアテングら09年のU-21欧州選手権優勝メンバーだった。21年にもドイツはU-21欧州選手権で優勝を果たし、フロリアン・ビルツ(レバークーゼン)、ニコ・シュロッターベック(ドルトムント)、アデイェミ、ムココら逸材がすでにフル代表入り。そうした流れを継続的に作り出したい狙いがそこにはある。
ちなみにビルツとジャマル・ムシアラ(バイエルン)も年齢的にはまだU-21欧州選手権に出場できるが、ディサルボU-21ドイツ監督は「ムシアラ、ビルツはもうU-21代表へは呼ばないということで、フリック(監督)と話がついている」と明かしている。彼らは「これからの選手」ではなく、すでにフル代表で大事な戦力だからだ。今後ドイツがどのように世代交代を図りながら、チーム力を向上させていくのかに注目したい。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。