J1リーグ開幕「1か月」診断、 期待以上の3チームは? 上位戦線でV候補クラブと対抗の可能性も

川崎が不調に喘ぐなど明暗が分かれたJ1序盤戦【写真:Getty Images】
川崎が不調に喘ぐなど明暗が分かれたJ1序盤戦【写真:Getty Images】

【識者コラム】期待以上の3チーム&巻き返しに期待の1チームをピックアップ

 今季のJ1リーグ開幕から1か月余りが経ち、各チームとも5試合を消化した。昨季からの戦力をベースにスタートダッシュに成功したヴィッセル神戸が首位に立つ一方、王座奪還を狙う川崎フロンターレが14位に沈むなど明暗が分かれたなか、ここでは期待以上のパフォーマンスを見せた3チームに加え、今後の巻き返しに期待する1チームをピックアップする。※各成績は3月31日時点のもの

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【ポイント1】
“期待以上”の出来だった3チーム

■名古屋グランパス:2位(勝ち点10)/3勝1分1敗 5得点1失点

 鉄壁の守備を支えとしながら、ダイナミックなサイドアタックに、加速性能の高いアタッカーが相手ゴールを襲う。これまで長谷川健太監督がガンバ大阪やFC東京で見せた「ケンタ・サッカー」が、名古屋でも完成度を上げてきている。ビルドドアップ面では多少、立ち位置を意識した構築はしているが、あくまで最大のストロングはトランジションからの縦の加速力だ。永井謙佑、キャスパー・ユンカー、マテウス・カストロ、ターレスなど、メンバー的にもそれを生かさないのは愚の骨頂であることを指揮官も強く認識しているだろう。

 基本的な戦い方は固まっているが、個性的な選手を組み替えることで相手にとって対策しにくい状況は生まれつつある。例えばU-20代表の甲田英將が左のウイングバックに入る場合、左に早く付けてドリブルを生かすことが多くなる。右サイドが技巧的な内田宅哉か、激しい上下動を得意とする森下龍矢かでも違ってくる。前線もユンカーをベンチに置いて、ポストプレーが得意な酒井宣福が張ることで、縦のスピードを押し出すユンカーとはまた違った深みを出せる。

 非常にシンプルなようでいて、明確に対策を立てにくいのが名古屋の特長となりつつあるだけに、ベースの守備強度さえ落ちなければ、このまま上位戦線で横浜F・マリノスなどに対抗していける可能性は大いにある。

“昇格組”新潟は上々の出来、戦い方は第2次森保ジャパンのお手本のよう

■アビスパ福岡:4位(勝ち点10)/3勝1分1敗 5得点3失点

 ここまで5試合3失点と持ち前の堅守が目を引くが、3-4-2-1を採用している現在、攻撃はシンプルな長いボールだけでなくウイングバックやシャドーを活用して、うまくスペースを取っていく攻撃が多くのチャンスにつながっている。トップの選手をいきなり狙わないことで、フィニッシュの局面でフリーになったり、アクセントで絡むことができ、そこからシャドーの山岸祐也や新加入の佐藤凌我といった選手たちも前向きにボールに関与できる。

 2-1で勝利したリーグ第5節の湘南ベルマーレ戦のように、相手がどんどんボールを奪いにきてくれると、シンプルなビルドアップを起点に、ウイングバックやシャドーが裏返しを使いながら、どんどん前に出ていく流れを作ることができる。結果的にパス成功率は62.3パーセントと低くなったが、前を選択するプレーが多くなった結果とも言える。逆に0-0で引き分けた第4節の鹿島アントラーズ戦のように、あらかじめスペースを消された時に、なかなか前に出ていけないという課題はある。

 攻撃力はアップしているように見えて、5試合で5得点。最終ラインにドウグラス・グローリ、奈良竜樹、宮大樹という屈強な3バックが揃っている限り、1試合で複数失点するリスクはほぼなさそうだが、積極的にボールを奪いにくる相手、危険なところを消してくる相手、両面にうまく向き合って得点数を増やしていきたい。

■アルビレックス新潟:8位(勝ち点8)/2勝2分1敗 8得点7失点

 開幕5試合で勝ち点8は上々のスタートと言える。GKの小島亨介から始まるビルドアップで相手のプレスを誘いながら、縦パスをスイッチに加速して、迫力あるフィニッシュにつなげる。速攻と遅攻の使い分けが見事で、サイドとボランチの関わり方もスムーズ。チャンスの大半は4-2-3-1のトップ下に君臨する伊藤涼太郎が絡むが、そこに至るルートは多彩だ。ある種、再現性のあるビルドアップに取り組み始めた第2次森保ジャパンのお手本のような戦い方をしている。

 上位を維持するための課題は自陣に引き込んでから裏返す狙いが相手に分かってきているので、最初の数試合ほど簡単にはボールを運べなくなるかもしれない。伊藤をほぼ封じられた第5節の浦和レッズ戦(1-2)は今後の対戦相手の参考にされるかもしれない。基本的なやり方は変えないでほしいが、ハイプレスをかけられるにしても、ブロックを敷かれるにしても、必ず空いてくるスペースを共有して攻め切れるか。セカンドボールの回収力も生命線になりそうだ。

 キーマンは1-0と勝利したルヴァン杯鹿島戦で伊藤のポジションを担った吉田陣平、20歳のサイドアタッカー小見洋太などで、若手の突き上げによってメンバーが良い意味で固定化しないことも大事になる。

怪我人続出で苦しんだ川崎、“本来の居場所”に浮上していく期待感も

【ポイント2】
今後の巻き返しに期待の1チーム

■川崎フロンターレ:14位(勝ち点5)/1勝2分2敗 4得点5失点

 チームの実績やポテンシャルを考えれば、序盤戦で最も苦しんでいるチームと言わざるを得ない。もちろん、バックラインに怪我人が多発し、育成型期限付きでJ2ジェフユナイテッド千葉へ育成型期限付き移籍していた田邉秀斗を急遽呼び戻すほど、台所事情が苦しくなったことは結果にも少なからず影響しているはず。ただ、多くのタイトルをもたらしてきた主力選手とのクオリティーの差が小さくなく、彼らが揃わないと基本的なベースが下がってしまう問題が序盤戦から出てしまった感もある。

 今シーズンのキャンプから取り組んでいるという可変のビルドアップも、試合のエビデンスとしてはやや、手段が目的化している向きもある。ワイドを使った展開は悪くないが、肝心な中央での迫力不足につながっているところもあり、現段階で川崎の本来のストロングに噛み合っているとは言い難い。セレッソ大阪戦(第5節/0-0)では4-2-3-1を採用。チャナティップを「10番」のポジションにしたことで、大卒ルーキーから試合に絡んでいる山田新とともに、ボックス幅で相手の堅守を脅かすシーンはいくつか見られた。

 チャナティップや山田のような個での打開力のあるタレントを中央で生かすには4-2-3-1、前向きに決定力を発揮する宮代大聖を生かすなら、2トップがベターなところもあるので、従来のベースである4-3-3との使い分けが鍵になるかもしれない。また序盤戦は怪我人も多く苦しかったが、その分、若い選手や昨シーズンまでリーグ戦であまり出番のなかったメンバーが試合に出て経験値を高めている。いきなりの急上昇は難しいが、いくつかのシステムをやりくりしながら、選手のポテンシャルが今後の戦いで反映されれば、徐々に“本来の居場所”に浮上していく期待はある。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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