日本代表が陥ったまさかの“落とし穴” 2つのJクラブなら回避も…「なんのためのパス」で本末転倒

ウルグアイ戦はポジショナルプレーが最悪の形で表れた日本代表【ロイター】
ウルグアイ戦はポジショナルプレーが最悪の形で表れた日本代表【ロイター】

【識者コラム】新機軸に見えた日本代表の強い意思、しかし結果は最悪に近かった

 カタール・ワールドカップ(W杯)後、日本代表の初の試合となったウルグアイ代表戦は1-1。2026年へのスタートはボール保持への意欲を示していた。

 ビルドアップでは「偽サイドバック(SB)」を新機軸として採り入れた。新機軸といっても、SBが中へ入る形はJリーグでもいくつかのチームが採り入れていて今時珍しいやり方ではない。ただ、これまでポジショナルプレーの導入が希薄だった日本代表がそこへ踏み入れたのは、自分たちでボールを保持したいという強い意思の表れと受け取れた。

 しかし、結果はあまり良くなった。というより状況としては最悪に近かったのではないかと感じている。上手くいったプレーもあったし、まだ始めたばかりなのであまり酷評はしたくないのだが、ポジショナルプレーを導入する場合にこうなってはダメというサンプルのようになっていた。

 ポジショナルプレー自体はかなり便利なツールである。問題はポジショナルプレーが目的になってしまいがちだということ。ビルドアップの目的はボールを安定的に前進させることであり、ポジションを変化させるのもそのためだ。ところが、ウルグアイ戦の日本のビルドアップはむしろビルドダウンになっていた。保持していてもなかなか前進ができない。

 前進できないボール保持は相手のプレッシングをまともに受けてしまう。そうなるとボール保持はむしろ危険になってしまうのだ。本末転倒、なんのためにパスをつないでいるのか分からない。

 ポジショナルプレーが目的化したパスワークはテンポが上がらないという特徴が見られる。相手のいない場所を探してボールを動かそうとするが、相手にとってそこはむしろ空けてある場所なので、相手のプレスを呼び込む格好になってしまう。どんどんプレスされるのでボールは下がるばかり。ボールを前進させようとするのではなく、ポジショナルプレーをやろうとするから遅くなるし、遅いので圧を受けてしまう。

ポジショナルプレー導入時に起こりがちな現象が日本代表でも発生

 前へボールを動かすだけなら、蹴っ飛ばしてしまえば簡単だ。ラインは通過できるし敵陣にボールは入る。ただ、それではすぐに相手ボールになるだけで、安定的に前進させることはできない。

 そこで立ち位置を変化させてボールを守りながら相手を動かし、隙を作り出してボールを着実に前進させたい。そのためにポジショナルプレーはあるわけだが、その手段が目的化すると逆にすべてが逆効果になる。ポジショナルプレーを導入したばかりのチームに起こりがちな現象なのだが、まさかそれが日本代表でも起こるとは思わなかった。

 例えば偽SBをやり始めて数年が経過している横浜F・マリノスなら、もっとスムーズなビルドアップができただろう。ビルドアップでは今季J1でも屈指のアルビレックス新潟でも上手くやれたかもしれない。個々の選手の質で言えば日本代表選手のほうが高いはずだが、慣れていないということなのだろう。

 ウルグアイ戦の先発メンバーは全員欧州でプレーしている選手だが、いわゆるビッグクラブ所属はいない。圧倒的にボールを支配するチームではプレーしていない。日本代表で急にマンチェスター・シティのようなことを始めてもすぐに消化できないのは無理もないわけだ。ただ、代表チームは時間がないので、そう悠長に構えてもいられない。

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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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