三笘薫、切り札→大ブレイクの“下剋上”なぜ成功? 「ビッグマウス発言」なしの人物像から浮かぶ“異例の出世”理由

飛躍を可能にした“ジョーカー”として積んだ経験

 昨年8月21日にアウェーで行われたプレミアリーグ第3節のウエストハム戦、三笘は後半アディショナルタイムに登場し、わずか2分間のプレーで試合を終えている。2-0の勝利を飾ったことで記者団の前に現れた三笘の表情は晴れやかだったものの、開口一番に出た言葉は淡々と“今の自分”を見つめたものだった。

「まあ仕方ないですね。これが現状なんで。カップ戦で結果を出して(アピールしたい)。今のところ、ビハインドや同点のところの(ゴールを取る)役割が求められていて、それがいかにできるかということだと思っています」

 しかしこれは三笘にとって初めての経験ではない。振り返ると、J1の川崎フロンターレでのルーキーイヤーやベルギーでの1年目、さらには日本代表に選出された当初もスーパーサブの扱いだった。本人が話しているとおり、ビハインドや同点の場面で起用され、点を取りに行く役割が期待されてのものだ。

 今季のブライトンでもこれまでのように“ジョーカー”が出発地点だった。しかし、「こうした状況は慣れている」と言わんばかりに三笘は奮闘。シーズン半ばでレギュラーの座をがっちりと掴んだとはいえ、ここまでには“幸運”と“ターニングポイント”があった。

 幸運とは、シーズン当初にチーム内で左サイドのレギュラーを確立していたベルギー代表MFレアンドロ・トロサールがイングランド人FWダニー・ウェルベックの怪我で1トップにコンバートされたことだ。そして、ターニングポイントはトロサールの先制点をアシストした昨年10月29日のプレミアリーグ第14節チェルシー戦である。

 三笘はこの試合で先発出場を果たすが、それは本人にとっても“サプライズ”だったことが試合後の取材で明らかになった。というのも、この約2週間前のプレミアリーグ第11節ブレントフォード戦で右足首を負傷し100%の状態ではなかったからだ。ロベルト・デ・ゼルビ監督に先発を告げられると本人もびっくりしたそうだが、その後は気持ちをこうシフトさせている。

「せっかくもらったチャンスを潰すわけにはいかない。そこはもう切り替えて、(怪我は)なるべく考えないようにした」

 こうしてジョーカーの立場からワンチャンスをものにして先発レギュラーへと駆け上がっていくなか、これまでにした同様の経験は役立ったはずだ。与えられたチャンスできっちり結果を出す。その重要性への理解とメンタルが三笘に備わっていないわけがない。

森 昌利

もり・まさとし/1962年生まれ、福岡県出身。84年からフリーランスのライターとして活動し93年に渡英。当地で英国人女性と結婚後、定住した。ロンドン市内の出版社勤務を経て、98年から再びフリーランスに。01年、FW西澤明訓のボルトン加入をきっかけに報知新聞の英国通信員となり、プレミアリーグの取材を本格的に開始。英国人の視点を意識しながら、“サッカーの母国”イングランドの現状や魅力を日本に伝えている。

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