なぜドイツ代表はパニックに陥ったのか? 現地指導者も驚いたW杯日本戦のミス「あり得ない」 再出発へ抱える「大きな問題」

カタールW杯を戦ったドイツ代表について語ったドイツ人指導者クラウス・パプスト【写真:中野吉之伴】
カタールW杯を戦ったドイツ代表について語ったドイツ人指導者クラウス・パプスト【写真:中野吉之伴】

ドイツ代表の希望となる3人は? 「ワールドクラスの選手になれる資質がある」

 ミスからの失点は当然あり得る。ただ日本戦で堂安律による同点ゴールが生まれたあと、持ち直せないまま浅野拓磨に逆転弾を許したことがドイツサッカー界に重くのしかかっている。今後に向けて議論の1つとなっているのが中盤の構成だ。ドイツ代表には、アルゼンチン代表におけるエンソ・フェルナンデスやモロッコ代表のソフィアン・アムラバトのような選手がいない。

「ヨシュア・キミッヒは間違いなく素晴らしい選手だが、ボランチではない。バランスプレーヤーではなく、もっとオフェンシブな選手。最高レベルのインサイドハーフだ。バイエルン(・ミュンヘン)でもそうなんだが、彼のサポートができる選手が出てきてほしい。レオン・ゴレツカも素晴らしい選手だが、彼にしてもボランチではないんだ」

 ではドイツ代表で候補に挙がってくる選手はいるのだろうか。

「難しいね。現時点では…いや、いない。CLに常時プレーしているドイツクラブでこのポジションでプレーしているのは、ほとんど外国籍選手だ。挙げるとしたら、レバークーゼンのロベルト・アンドリヒ。ただ、彼にしてもワールドクラスと言えるかどうか。

 大きな問題だな。これも育成における取り組みに反映されなければならないところだ。子供たちはさまざまな特徴やキャラクターを持っている。時に枠をはみ出ているような子供たちもいるが、それを煙たがるのではなく、彼らの持つ特性をどうやったらポジティブに生かせるのかという視点で考えることがとても大切だと思うのだ」

 2024年にはドイツで開催される欧州選手権(EURO)が控えている。ドイツサッカー界にとって希望となるのはなんだろう? 忘れてはいけないのはドイツには優れた選手が確かにいるということ。ハンジ・フリック監督は、そうしたドイツ代表として起用できる選手の中でチーム作りをしていかなければならない。

「希望となるのはフロリアン・ビルツ(レバークーゼン)。彼が負傷から完全に復調してきたら、大きな戦力補強になる。ジャマル・ムシアラ(バイエルン)とともに、違いを生み出せるハイクオリティーの選手だよ。資質で言えば、カイ・ハフェルツ(チェルシー)もそこに加わってくるのだが、チェルシーでの現状は望ましいものではない。出場機会が十分ではない。いずれにしてもこの3人はトップレベルのワールドクラスの選手になれるだけの資質があるのは間違いない。それだけに彼らを中心としたバランスの取れたチーム作りを進めていくことが求められるだろう」

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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