世界一のW杯と日本一の高校選手権、頂点を狙うなら「味方につけることが不可欠」な共通項とは?

第101回高校サッカー選手権ではPK戦で勝敗を決める試合が多くなった【写真:徳原隆元】
第101回高校サッカー選手権ではPK戦で勝敗を決める試合が多くなった【写真:徳原隆元】

【識者コラム】ビッグトーナメントの一発勝負で避けて通れないPK戦

 世界一や欧州一を競うビッグトーナメントと、部活の日本一を争う全国高校サッカー選手権にも共通項がある。それはもはや頂点を狙うならペナルティーキック(PK)戦を味方につけることが不可欠だということだ。

 ワールドカップ(W杯)や欧州選手権(EURO)と、高校選手権は似たような歴史を辿っている。1982年スペイン大会から出場国枠が「24」に広がったW杯は、日本が初出場を果たした1998年フランス大会からは32か国になり、次回からは48か国まで膨れ上がる。また創設から5回大会までは4か国のみが決勝大会に出場していたEUROも、1980年大会で8か国、1996年からは16か国と倍加し、現在は24か国で争われている。そして全国高校選手権も、1970年度までは出場枠が16校に限られていたが、徐々に変革拡大への道を辿り、1983年度からは48校で定着している(記念大会は除く)。

 世界を見ても国内を見ても共通しているのは、出場枠が拡大すると普及が進み地域格差が解消されていることだ。2022年度の全国高校選手権では岡山県から初めての優勝校が誕生したが、W杯でもモロッコがアフリカ勢としては初めてベスト4に進出した。32か国体制になってから初めて出場した日本も、以後フル出場を続け4度目のグループリーグ突破を果たした。

 こうして実力が接近したチームが集結し一発勝負で頂点を競い合えば、当然PK戦は避けては通れない。例えばPK戦では日本を圧倒したクロアチアは、前回ロシア大会と今回のカタール大会で4度のPK戦を経験しているが、1度も負けていない。とりわけ今回は守護神ドミニク・リバコビッチの驚異的なセーブが目を引いたが、2試合で延べ8人のキッカーのうち失敗は1人だけだった。これだけの精度を誇れば、確実にPK戦での勝算は成り立ち、無理に勝ち越し点を狙いに出る必要はなくなる。逆にPK戦への準備が不足している日本は120分以内で決着をつけなければならないという焦燥を募らせた可能性もあるし、クロアチアが日本戦で見せたPK戦のパフォーマンスは次に戦うブラジルにも少なからずプレッシャーをかけたに違いない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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