世界一のW杯と日本一の高校選手権、頂点を狙うなら「味方につけることが不可欠」な共通項とは?

全国制覇を果たした岡山学芸館【写真:徳原隆元】
全国制覇を果たした岡山学芸館【写真:徳原隆元】

高校選手権を制した岡山学芸館、PK戦に万全の準備を施したことが大きな勝因に

 全国高校選手権を制した岡山学芸館も、PK戦に万全の準備を施したことが大きな勝因になった。青森山田という標的が消えた今大会は、多くのチームにチャンスが広がり群雄割拠の様相を呈した。そのなかで岡山学芸館は2試合で9度のPKをすべて成功させたわけだが、準決勝で1人目の田口裕真が真ん中に決めた以外は、ことごとくゴール左隅を狙い、2回戦5人目の今井拓人以外はトップコーナー近くに蹴り込んでいる。同校の高原良明監督は「狙ったところに強く蹴れるように」と県予選から試合前日以外はトレーニングを続けた成果だと語ったが、大会屈指のGK平塚仁を擁したことも含めて、負ける要素を極限まで排して臨んでいた。

 PK戦が運任せでないことは歴史も証明している。ビッグトーナメントで初めてPK戦が実施されたのが1976年EURO決勝で、この時はチェコスロバキアが西ドイツを下して優勝を飾った。勝利を決めた5人目のアントニン・パネンカは、GKの動きを嘲笑うかのようにゆるやかなループでゴール中央のネットを揺すり、以後発案者の名は専売特許のように定着している。しかしこの苦い経験を最後にドイツはPK戦での負けがない。W杯とEUROで通算5度のPK戦で全勝。外したのも1982年スペインW杯準決勝でのウリ・シュティーリケだけだ。また今大会で優勝したアルゼンチンも、W杯で過去7度のPK戦を行い6勝1敗の成績を残しており、逆にすべて落としていれば今回も含めて3度の決勝戦の舞台を逃していた。

 つまりこの時代に、高校のチームはもちろん、世界で競い合うようなチームは、データ収集も含めて可能な限りPK戦にも万全の準備を施している。今回は日本代表のスタッフが個人的に尽力して権田修一に映像データを渡したというが、PK戦常勝のドイツを参考にするだけでも、日本サッカー協会(JFA)も優秀な分析チームくらいは用意できたはずだ。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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