【検証】森保ジャパンの「4年間」(1)・戦術プラン W杯本大会で成功?失敗?…賛否両論の背景にあった“独自手法”は奏功するか

オーストラリア戦から採用された新システム、ヒントは“岡田ジャパン”

 システムを4-1-4-1にして、MF遠藤航とMF守田英正、そして東京五輪世代のMF田中碧をスタメンに抜擢して、中盤にボランチを3枚並べる4-3-3(森保監督は4-1-4-1と説明)で、オーストラリアのパスワークに立ち向かい、鋭いショートカウンターを繰り出した。守田と田中という川崎に縁のある選手が並んだことで“川崎システム”とも言われたが、真相は2010年にベスト16進出を果たした岡田ジャパンが大きなヒントだったという。

 サイドの守備をウイング、インサイドハーフ、サイドバックの3人で安定させながら、前にプレッシャーをかけていくというもので、オーストラリアは効果的にパス回せないばかりか、強引に狭いところを狙っては日本にボールを刈り取られた。そうした意図のあるシステムチェンジがはまって貴重な勝ち点3を奪取した日本だが、そのまますべての相手にハマるわけではなかった。

 本来、システムというのは戦術の基盤に過ぎず、4-2-3-1にしても4-3-3にしても選手の配置や相手との噛み合わせでメカニズムも変わるものだ。森保監督も4-3-3を“3ボランチ”ありきにせず、MF鎌田大地やMF原口元気など、より攻撃的な選手をインサイドハーフに起用したり、親善試合ではMF久保建英、MF柴崎岳を組み合わせたりした。

 そして9月シリーズでは4-2-3-1に戻してアメリカ戦、エクアドル戦でさまざまな組み合わせをチェックしたが、どちらのシステムにしても、限られた合宿の中で話し合いを重ねるなかで、相手を見ながらどこからプレッシャーをかけて、ボールを奪ったらどう攻めるのか、次第にブラッシュアップされていった。

 9月のシリーズに関しては本番仕様ということで、アメリカとエクアドルの分析も踏まえて、相手のビルドアップに応じたサイドハーフのポジショニング、同サイドの立ち位置の関係まで踏み込んで詰めたといい、ミーティングでの森保監督やスタッフからの指示、選手間の擦り合わせ、両方で前進があったという。

 ここまで森保監督が率いる日本代表の戦い方に賛否両論があるのは、最初から戦術的なディテールを選手に指示するのではなく、試合を重ねながら作り上げて行く手法を取ってきたことだ。それが臨機応変というワードの真理なのかもしれないが、その時に少なくとも指揮官がベストと考えるメンバーで最適な組み合わせを探り、コミュニケーションを積み重ねて戦術を作っていく。

 こうした方法で難しくなるのは後から代表に入ってくる選手たちだが、東京五輪チームの監督を務めたことを生かして、徐々に若い世代を組み込むことには成功している。森保監督がこうしたプランを取ってきた理由に1つには選手それぞれが所属クラブで違う戦術を経験していて、アップデートされる事情もあるだろう。

 森保監督がオリジナリティーのある戦術を提示して植え付けるというより、4年間をかけて選手と話し合いながら作り上げてきた。そうしたやり方が成功に終わるのか失敗に終わるのかは本番の結果でしか分からないが、直前に監督交代を経験した前回よりも、検証性のあるチームとして本番に挑んでいくことは間違いない。

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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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