今季のFC東京は苦戦?善戦? 代謝を図りながら手探りの実験は及第点…来季に真価発揮の可能性を秘めている
【識者コラム】降格圏に呑み込まれるような危機的状況もあり得た今季のFC東京
味の素スタジアムの記者会見場は、ほぼ満席に近い混み具合だった。だがアウェーチームの監督が先に会見を済ませると、おそらく3分の2前後は席を立ってしまった。つまり集まった記者の大半が、首位を走る横浜F・マリノスの取材が目的だったことになる。
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コロナ禍の影響で各チームの消化試合数にばらつきがあるが、おおむねJ1はラスト3分の1程度に差しかかっている。FC東京は、9月4日首位の横浜FM戦を2-2で分け、勝ち点だけで考えれば8位。AFCチャンピオンズリーグ(ACL)出場権は難しいが、降格のリスクもない。カップ戦もすべて消化済みなので、焦点を当て難い状況だ。
昨年までは長谷川健太監督体制が4年間続き、最終節まで優勝の可能性を残したこともあれば、ルヴァンカップを制したこともあるので、それに比べれば明らかに存在感は薄れ中間順位のチームに甘んじている。だが反面、新たに前任者とは真逆のスタンスの指揮官を迎え、長谷川前監督が退陣した昨年(9位)とほぼ同等の順位につけているのは、むしろ善戦という見方もできる。長谷川前監督には4年間の蓄積があり、しかもチーム作りは就任前から始まっていた。逆に長谷川前監督は、就任時点で戦力を見極め、素材に合わせて堅守速攻というスタイルを選択し磨いてきた。
一方で新任のアルベル監督は、あまり変わらない戦力を引き継ぎながら、ポゼッション型へと舵を切ろうとしたわけだから、場合によっては降格圏に呑み込まれるような危機的状況もあり得ないことではなかった。
横浜FMは3年前に直接優勝を争った相手だが、昨年11月には直接対決のアウェー戦で0-8の大敗を喫していた。この夜の対戦でも、序盤紺野和也のシュートがポストを叩くチャンスを築きながら、徐々に試合を支配され前半で2点のリードを許していた。ピッチ上には大敗を喫した時にもスタメン出場した選手が5人を占めており、昨年の二の舞になる懸念がよぎった選手もいたかもしれない。
だが後半開始から故障した中村帆高に代えてバングーナガンデ佳史扶を送り出し1点を返すと、後半12分にはあえて前半チームを牽引してきた紺野や安部柊斗らを下げる3枚代えで勝負を賭け同点に追い付く。その後は2ゴールを挙げた塚川孝輝を下げなければならない事態に陥ったため、そこからは5-3-2にシフトチェンジをして横浜FMの猛攻を凌ぎ切った。
加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。