レフェリーと選手の“緩んだ”関係はJリーグの懸念点 元主審・家本政明氏が「コミュニケーションの意味をはき違えている」と語る訳

家本政明氏がJリーグの関係性の懸念点【写真:FOOTBALL ZONE編集部】
家本政明氏がJリーグの関係性の懸念点【写真:FOOTBALL ZONE編集部】

【インタビュー】レフェリーと選手の関係性において緊張感が低下している印象

 9月3日のJ1リーグ第28節の鹿島アントラーズ対浦和レッズ戦で「家本政明ぶっちゃけLABO」というオンライン同時視聴イベントを開催する元国際審判員・プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏。主審としてJリーグ歴代最多516試合担当という経歴を持つ家本氏が、最近のJリーグで見られるレフェリーと選手の“緩んだ関係”を懸念点として挙げ、「試合の緊張感はフットボールの魅力や価値を高める重要な要素の1つ」と理由について語っている。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 最近のJリーグで気になるのが、レフェリーと選手の関係性です。適度な距離感や適切なコミュニケーションはもちろん必要ですし、かつてのように敵対したかのような関係性はあってはならないですが、かといってレフェリーと選手は“友達”ではないので選手に対する敬意や配慮はあっても、変に仲良くしすぎる必要はないと感じています。

 例えば、必要以上にレフェリーが選手の背中やお尻のあたりをポンポンと叩いてスキンシップを図ったり、選手と長々と話している場面をよく見かけます。お前が言うなと多くの方に言われるかもしれませんが、最近の傾向を見てちょっとやりすぎなのではないか、手段が目的化しているのではないかと懸念しています。

 厳しく言えば、コミュニケーションの意味をはき違えた過剰なスキンシップやコミュニケーションが散見されているようになったということです。もちろん選手に気持ち良くプレーしてほしい、選手と良好な関係を築きたい、試合を魅力的にしたいと思ってやっている行為なのは分かります。しかし、良かれと思ってやることがすべて適切というわけではないのも事実です。

 そういったレフェリーの過剰なスキンシップやコミュニケーションが見られたかと思えば、大事なところで笛を吹かなかったり、吹いた方がいい場面で吹かれない。あるいは、カードを出さなければいけない場面で出ない。世界のスタンダードを考えた時、最近の選手への接し方は日本のオリジナルになっている気がしています。フットボールってこうだっけ、審判と選手の関わり方ってこれでいいんだっけと思ってしまう場面がJリーグで増えているのは気になるところです。

 違う言い方をすると、レフェリーと選手の関係性において緊張感が低下し、張り詰めていた糸が緩みすぎているような印象を持っているということです。決してスキンシップやコミュニケーション自体を否定しているわけではなく、もう少しシンプルな対応でいいのではないかということです。

 選手とレフェリーというお互いの役割・立場を理解し、選手を尊重しつつも超えてはいけない線を明確にすることで、厳しい判定や難しい対応も躊躇なくできるようになるし、甘えや迷いを打ち消すことにもつながります。そうすることでいい意味での緊張感が保たれ、試合に張りが生まれるのかなと思っています。レフェリーにとって大事なことは公正・公平とフットボールの魅力や価値を高めることであって、コミュニケーションはそれを実現させるための手段の1つでしかないということです。そして選手と審判はフットボールファミリーであっても試合中は友達ではないということです。

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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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