Jリーグで起きた“審判交代”の珍事…元レフェリー家本政明が「美しいシーン」と絶賛した理由 「勝ち負けが決してすべてではない」

激闘となった神奈川ダービー【写真:Getty Images】
激闘となった神奈川ダービー【写真:Getty Images】

【専門家の目|家本政明】「喜田選手の行為はキャプテンだからではなく…」

 元プロフェッショナルレフェリーの家本政明氏が、8月7日のJ1リーグ第24節の川崎フロンターレ対横浜F・マリノス戦(2-1)でリアルタイム解説のオンライン配信イベント「家本政明ぶっちゃけLABO」を実施。大好評でイベントを終えた家本氏は、後半途中に主審が負傷交代したハプニングをどう見たのか。横浜FMのキャプテンMF喜田拓也や両軍の監督が見せた振る舞いについて、「美しいシーン」「両監督のああいうシーンはなかなか見ない」と絶賛している。(取材・構成=FOOTBALL ZONE編集部)

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 神奈川ダービーは前半25分に川崎が華麗な連係から元ブラジル代表FWレアンドロ・ダミアンが先制ゴールを奪った一方、同アディショナルタイムに横浜FMもFW仲川輝人がカウンターから同点ゴール。一進一退の攻防を続いたなか、後半アディショナルタイムにDFジェジエウが決勝弾を叩き込み、川崎が2-1と劇的勝利を手にした。

 そんな一戦で思わぬハプニングが起きたのが、1-1で迎えた後半30分だ。川崎が左コーナーキックを獲得し、こぼれ球からのシュートは枠を外れる。横浜FM側のボールで再開するかと思われた直後、木村博之主審が左太もも裏を痛めた仕草を見せて試合が一時中断。その際、横浜FMのキャプテン喜田が審判の横に立ち、審判団に向けて両手をクルクルさせて交代を要求するジェスチャーを見せた。

 直後には、川崎のFW小林悠やL・ダミアン、横浜FMのGK高丘陽平らも木村主審に近寄り、気遣うように次々声をかけていく。ライン際までゆっくりと歩く木村主審の横には喜田がぴたりと寄り添い、最後まで見送る気配りも見せている。最終的に第4審判員の佐藤誠和氏が主審として登場し、佐藤氏は思わぬ形でJ1デビューを果たす形となった。

 リアルタイム解説のオンライン配信イベント「家本政明ぶっちゃけLABO」を終えた家本氏は、改めてこのシーンに言及。「フットボールやスポーツの素晴らしさを感じるシーンでした。もちろん勝ち負けが付きまとう世界ですが、人にはドラマがあること、勝ち負けが決してすべてではないことを再認識させてくれました」と語り、喜田にも言及している。

「喜田選手の行為はキャプテンだからというわけではなく、もともと持っている人間性が自然と現われた美しい振る舞い。気配り・心配りも滲み出ていました。あの状況で、フットボーラーとしてだけでなく、1人の人間として何をすべきかですよね。負傷交代のシーンを見て美しいと感じることはあまりないのですが、あの2チームだからこそ、美しいシーンがより自然と生まれたのかもしれません」

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家本政明

いえもと・まさあき/1973年生まれ、広島県出身。同志社大学卒業後の96年にJリーグの京都パープルサンガ(現京都)に入社し、運営業務にも携わり、1級審判員を取得。2002年からJ2、04年からJ1で主審を務め、05年から日本サッカー協会のスペシャルレフェリー(現プロフェッショナルレフェリー)となった。10年に日本人初の英国ウェンブリー・スタジアムで試合を担当。J1通算338試合、J2通算176試合、J3通算2試合、リーグカップ通算62試合を担当。主審として国際試合100試合以上、Jリーグは歴代最多の516試合を担当。21年12月4日に行われたJ1第38節の横浜FM対川崎戦で勇退し、現在サッカーの魅力向上のため幅広く活動を行っている。

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